お題:刑事さんがかっこいいアラセス



「そこのあなた」
「セス?どうしたんだ?」

署を出るとセスがオレを待っていた。
前にもこんなことがあった気がする。
とは言え、セスに待ち伏せされて突拍子もないことを言われるのはある意味いつものことだ。

「少し私に付き合ってください」

だけど今日は何だか雰囲気が違う気がする。
とりあえず頷き、連れて行かれたのは建物と建物の間になっている暗い一角。
人に聞かれたくない話をするのにはもってこいの場所だ。
足を止めるとようやく、一度も振り向かずにただ前を歩いてオレを先導するだけだったセスがこちらを向いた。

「さて、きちんとご挨拶するのは初めてになります。そして同時に最後にも」
「は?」
「私はセスと契約した悪魔のオルクといいます」

待て待て待て。
何を言い出すんだこいつ。
オレが混乱している間もセスはどんどん話を進めていく。

「契約は全て履行され、この体は私のモノになりました」
「おい――」
「せめてあなたには事情を話してほしいというセスの最後の願いで私はここにいます」
「いや――」
「セスが世話になりました」
「だから――」
「それではさようなら」

オレの言葉は全部遮られ、ただ一方的に告げられる話。
何か事情があるんだろうと今まで我慢していたが、最後の台詞でキレた。

「テメェ、待て」
「ぅんんっ!?」

立ち去ろうとするセスを捕まえて、こちらに振り向かせる。
文句を言うために開かれた口をそのまま奪った。
唇を無理やり割って舌を入れ、ぬるぬるとして弾力のある熱をひたすら追いかける。
最初こそ逃げ出そうともがいていたが、片手で体を抑え込みもう片方の手で顔を押さえ抵抗を封じるとすぐに大人しくなった。
咥内を貪りながらセスの顔を観察する。
反射的に閉じたらしい目の端に薄く涙が浮かんでいた。
胸をトントンと叩かれたので少し唇をずらし息継ぎをさせるが、まだ解放はしない。
オレが仕掛ける一方だった交わりに徐々にセスからの接触が増えてきた。
押さえていた手を離し頭を撫でてやると、ゆっくりとセスの目が開かれた。
とろんとした瞳がオレを見上げている。
あ、こいつ完全にスイッチ入ったな。
試しに舌を動かすのを止めるとねだるように自分から絡めてくる。
もう充分だ。

「…はぁ…っ」

唇を離しセスの耳元に顔を寄せた。
わざと息がかかるようにするとセスが小さく震える。

「セス、オレのこと好きか?」
「はい…」

抑えた声で尋ねた問いには、すぐさま熱っぽく答えが返された。
何も考えずに唯々心の内がこぼれ出たような声に満足し、セスの頭をはたく。
パシッと軽快な音がした。
セスが目を白黒させながら叩かれた部分を自分の手で押さえる。

「刑事さん!?」
「ホラ、化けの皮が剥がれてるぞ」
「あ」

痛みなんてほとんどないくせに、わざとらしく押さえたところを撫でながらセスが満面の笑み浮かべた。
ああ、これこそセスだ。

「まさかこんな方法で見破られるとは思いませんでした」
「わからない訳あるか」
「オルクに入れ替わったフリ、結構自信があったんですが見事な誘導尋問でしたね」
「二度とやるな。わかってても心臓が止まるかと思った」
「はい。もうしません」

ちくしょう、ズリィな。結構オレ怒ってるのに。
そんなに嬉しそうに言われたら許すしかないじゃないか。
頭をがしがし掻きながら溜息をつくオレにセスが抱きついてくる。

「ねぇ、刑事さん。もし、さっきのアレが本当だったらどうしてました?」
「お前と悪魔のことはわかんねぇ。ただ、お前がいなくなるのは許さない」
「――はい」