side:Pale Rider

今日の王様は奥の部屋から出てこない。
昨日、しばらく籠ると言っていたからオレの出番もしばらく無し。
王の間の手前の広い部屋でギターと遊びながら時間を潰してるとヒューが現れた。

『よぉ、残念だが王様は当分出てこねぇよ』
『そうか。ならここで待たせてもらおう』

何度も繰り返したお決まりのやりとり。
その回数を一つ増やすために口を開きかけたところで、ヒューの纏う空気がいつもと違うことに気づいた。
イヤだな。こういう勘だけは昔から当たるんだ。
手を止めてはいけない。
本能的な警告に従い必死にヒューから意識を逸らしながら弦を弾く。
曲ではなく空間を埋めることだけが目的の演奏。
幻想即興曲からビートルズ、マザーグースの唄に昔やったゲームの音楽、インディーズ時代に一度だけ同じステージに立ったバンドのタイトルも覚えてないメロディー。
ヒューは黙って聴いている。
オレは指を止めない。
けれど足掻いたところで永遠に誤魔化し続けられる訳もない。
演奏が途切れ、静寂が生まれた瞬間にヒューが口を開いた。

「好きだ」

ギターを鳴らす

「――ん?ヒューじゃねぇか。何か言ったか?」

今気づいたという表情を作り聞き返した。
何も聞こえなかったぞ。
さあ定型文の会話を始めようぜ。

「好きだと言った」
「おぅ、オレも好きだぜ。むしろ王様とお前らと可愛い女の子以外ぜんぶキライだ」
「愛してる」
「おっと、急に言い方が重くなったな。ま、愛してると言えなくもねぇか。お前とならチューまでならオッケーしちゃうぜー」
「お前が好きだと、どうすれば信じる?」

重ねられる告白。
空気を読まないのもいい加減にしろよ。
言葉に込められた本質に気づかないふりをしながら必死に願う。
もうやめてくれ。

「冗談だろ?」
「冗談ではない。お前を愛してる」

どうしてだ。
何が悪かった。
このままじゃお前との心地よい関係が終わってしまう。
頼むから否定してくれ。
最後に尋ねた声は震えていたかもしれない。

「本気か?」
「本気だ」

まっすぐとした目に貫かれ、絶望がオレを包んだ。


「……サイアク」


『ルシアン、君はヒューに特別な感情を抱いているようだね』
王様への敬愛とは別のささやかな好意。
こっそり抱えているだけで十分だった。
けれどそれを気付かれた時、王様はひどく激昂した。
実験という名目で施された、まさに蹂躙と呼ぶのが相応しい行為。
身体も心も隅から隅までボロボロにされた。
今でも思い出すだけで震えが止まらなくなる。

アレをヒューにも?
冗談じゃない。

「王様よりオレを選ぶ可能性があるヤツなんて、オレは要らない」

騎士は騎士。
王様に選ばれ、王様を選んだ以上それ以外を求めてはいけない。
思わずといった様子でヒューがこちらに近づこうとしたのをオレは全力で拒絶した。

「近寄るな」

哀しそうにヒューの目が伏せられ胸が痛む。
それでもオレは何も言えない。

「……時間をとらせて悪かった。今の話は忘れてくれて構わない」
「忘れるわけねぇだろ。お前が忘れろ」

お前がオレを好きだと言った。
こんな奇跡のような幸せを忘れたりするものか。
世界の終わりまで、オレにはこれで十分だ。

「それは出来ない。ただ二度とお前の前では言わないようにしよう」
「誰の前でも言うな」
「お前がそう言うなら」

約束するという言葉に酷く安心し、同時に耐えきれないほどの罪悪感に襲われて後ろを向く。
ヒューが去ったのを確認してハデスを呼び出した。

「……ハーデス。お前はかわいいなぁ。ふかふかで優しくて最高だ。ひゃくてんまんてん。セェクール」

温度の無い毛並みに顔を埋める。
ごめん。
ありがとう。

「大好きだ。なぁ、ハデス。大好きだぜ?」

ヒュー。

「愛してる」