パッチマン戦後で幸せハント兄弟



ユアンが無事退院し、十数年ぶりの二人暮らしが始まった。
記念すべきその初日、リビングのソファーで並んで座っているが会話はない。
今までは何だかんだで誰かがそばにいたので、本当に二人きりになるのは久しぶりな気がする。
なんとなく気まずい。
こんな時はどうしてたんだっけと考えていると、ふと一つの記憶が蘇った。

「なぁユアン。久しぶりにアレやらないか?」
「アレ?」
「父さんと母さんに教えてもらったアレ」
「ああ。アレか」

小さいころに教わった仲直りの方法。
パッチマンのあの事件以降は一度もやっていない。

「ああ、久しぶりにやろうか」

懐かしそうに言われて、決まった。

目を閉じて彼らの姿を思い浮かべる。

―『まずはきちんと立って向かい合ってごらん。大事なことだからね』

ソファーから立ち上がるとユアンもそれに倣う。
背筋をまっすぐ伸ばして向かい合った。
同じ姿勢で正面から見るとと我ながら鏡を見ているみたいだと思う。

―『次は口に出して言う。”ごめんなさい”』

「ユアン、ごめん。勝手に出て行って、お前のこと何も考えてなかった。ごめん」
「オレも。ごめんなアラゴ。ひどい事言ってごめん。あんな言い方してごめん」

リオやジョーさんに聞いたユアンの話。
ユアンがどれだけオレのことを想ってくれていたかを知った。

―『それから手を繋ぐ。右手も左手も両方ともだよ』

どちらからともなく手を伸ばす。
右手も、左手も、両方とも。
体温が伝わり、緊張と安心が同時に生まれる。

―『顔を近づけて、おでこをくっつけてみて?』

次の母さんの言葉を思い出した途端、オレは固まった。
ユアンが上半身を傾け、こちらに乗り出す。
二人の真ん中で頭を止めると、動かないオレを不思議そうに見あげてきた。

「ん?どうした?」
「だあぁぁあ!恥ずかしい!」
「おい、アラゴ!」

もう限界だ!
耐えきれなくなって投げ出そうとしたオレの両手をユアンが強く握り引き留める。

「手を離したらやり直しだぞ!?」

―『はい、残念。じゃあ始めからね〜』

ニコニコと笑う母さんの顔を思い出す。
あの時は何度逃げても母さんのオーケーが出るまで繰り返されられた。

「そうだった……。危ねぇ、サンキュ……」

深呼吸して気分を落ち着かせ、頭を前に傾ける。
額をくっつけると、予想以上に顏が近くなった。
ああ、オレ、今絶対に顏が赤い。
だけど近くで見るととユアンの頬も赤く染まっていたので少しほっとする。
そりゃそうだよな。
この年にもなって照れないわけがない。

―『お互いに、にっこり笑いかけてね』

やっとここまできたと息を吐く。
ユアンがクスクスと笑い出した。

「何だよ」
「いや、逃げ出そうとする場所が前と同じだったから」
「うるせぇ」

早々に指令をクリアしたユアンと逆に不貞腐れるオレ。
しまった。また自分でハードル上げちまった。
ええと、にっこり笑う。
……にっこり笑う。
意識すれば意識するほど上手くいかない。

「ごめんごめん。ほらアラゴ、笑ってくれ?」
「……あぁ」

見かねたユアンが声をかけてくる。
優しい声音にオレの顏が自然と緩んだ。
うん、大丈夫だ。
次が最後のステップ。

―『そして今の気持ちを伝えるの。”せーの”で言ってごらん?』

口の動きだけでタイミングを揃える。
”せーの”


「「大好き」」