スダレ
街の人を襲っているバンパニーズの手がかりを掴むため、僕とスティーブとハーキャットの三人は一晩中地下水路を歩き回った。
だけど結局何の痕跡も見つからずタイムアップになった僕たちは泥のような疲労感だけを抱えてホテルに帰った。
気絶するように眠って目覚めると枕元に置いてある花束に目を奪われる。
真っ赤なバラが、数えると12本。
なんだろう?
「スティーブ、コレどういうつもり?」
「おう、おはようダレン。カード無かっただろ?よくオレからだってわかったな」
「スティーブ以外にないでしょ。で、どうして急にこんなモノが置いてあるの。そもそもいつ買ってきたの。っていうか僕の部屋に勝手に入ったね!?」
スティーブは立ち入り禁止って寝る前にあれだけ散々言ったのに!
挨拶さえも飛ばして問い詰めるとソファーに座ったままのスティーブが指折り答えだす。
「入った。ルームサービスで届けてもらった。何でかって言ったら……忘れちまったか?」
三本の指が折り曲げられた手から顔を上げて僕を見る。
12本のバラ。
幼いころの約束。
メッセージカードをの無い花束。
スティーブが何を言おうとしてるのか思い当たって発作的に笑いが止まらなくなった。
「あははははは!」
お腹を抱えて笑うのなんて久しぶりだ。
ヤバい、大きな声を出すとハーキャットが起きちゃうかもしれないのに。
途中で片手を口に移して自分で声をふさいだ
なんだコイツ。
あんな約束ずっと覚えてたのか。
なんなんだ。
一通り笑いつづけ衝動の波が落ち着くと、スティーブが不機嫌そうにこちらを睨んでいた。
そりゃあ怒るよな。
むしろスティーブにしちゃ良く我慢した方だ。
逆だったら僕なんかとっくにスティーブのこと殴ってるだろうし。
成長したのは外見だけじゃないみたいで何よりだ。
あの約束ずっと覚えてたのか。
なんだよ。
――僕と同じじゃないか。
「ダーメ。まだ貰ってあげません」
「なっ!」
あの時のように愉快な気分で、持っていた花束をスティーブの前に突き返す。
スティーブが声を上げて立ち上がった
「スティーブこそ、約束覚えてないの?今何月だと思ってるんだよ」
バレンタインなんてとっくの昔、もしくはまだまだ先の話。
そんなタイミングで渡してくるから気づくのに遅れちゃったんじゃないか。
あー、なんだ、これスティーブが悪い。
笑いすぎて悪かったとか思ったのは間違いだ。
僕は悪くないや。
くるくると花束を回しながら尋ねる。
「それとも面倒な約束はお手軽に終わらせたかった?」
「ちげぇよ!!」
「うん、僕も。叶わなくなったと思ってた約束だから、大切にしたい」
ここで終わらせちゃったら何だか淋しい。
声を荒げるスティーブに正直な気持ちを伝えると、こいつにも思う所があったのかばつが悪そうに返された。
「……いつまで一緒にいられるかわかんねぇから、今のうちに渡しとこうと思ったんだよ」
「スティーブは変なところでバカだよね」
「うるせぇ」
拗ねた声で言われるとしょうがないなぁという気分になる。
しょうがないなぁ。
僕が譲ってやるか。
「……でも折角のお花なのにもったいないな。やっぱり貰ってあげる」
「お前なぁ、自分が言ったことコロコロ変えるなよ」
スティーブのツッコミは無視して花束の包み紙を外し、6本抜き取る。
「はい、半分返す」
スティーブがぽかんとした顔で僕を見る。
意味分かんないって顏。
ちっとも変わらない。
「これで前のと合わせて7本ずつね。次のバレンタインであと5本待ってるから」
だからいつまで一緒にいられるかわからないなんて言わないで。
今度こそずっと一緒にいよう。
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