sideE

翌朝。
オレはともかくオズにはまだ外出許可なんて降りるはずがない。
誰にも見つからないようにこっそりと病室を抜け出し、病院の屋上に昇った。
帰ってきたときの処罰は覚悟の上だ。
ああ、でもアラゴは怒るだろうな。
一応手紙は残してきたが、あまり効果はないだろう。
泣かれるのか怒鳴られるのか両方か。
考えるだけで憂鬱になるが、それでも今からやろうとしていることをやめる気にはならない。
『………………』
『…………』
『……………』
オズがどこかに電話を掛けるのじっとを待つ。しばらくすると轟音と強風とともに一台のヘリが現れた。
昨日の時点で話には聞いていたが、実際に見るとずいぶん派手な光景だ。
時間帯が早い事が幸いしてか、誰かが屋上に乗り込んでくるということはなかった。
とはいってもぐずぐずしている余裕はない。
急いで中に乗り込む。来た時と同じような迅速さでヘリは飛びあがった。
硬い椅子に座り窓から流れる風景を眺めていると、程なくヘリは鬱蒼とした森の前に着陸した。

「悪いがここからは歩きだ」

段差を飛び降りたオズがオレを先導する。
歩きと聞いてオレよりもオズの方が心配だったが、器用に松葉杖を使いこなし進んでいた。
時々体をぐらつかせるオズを支えながら森を抜けると、開けた視界に無数の十字架が飛び込んできた。
荘厳とも言える光景に息を飲む。

「ここは…?」
「アラゴに聞いてないか?」
「いいや」

オズの口ぶりからするとアラゴは知っているようだ。
だけどアラゴは妙なところで勘の鋭い奴だからわざと話題にしなかったのかもしれない。
顔を見るだけで特別に思っているとわかるこの場所。
本人以外が勝手に口にしていいものかと躊躇う気持ちはよく分かる。

「聖守護隊の墓地だよ……。あの人も、他の奴らも、みんなここに眠ってる」
「そうか……」

オズは森の中よりだいぶマシな道を危うげなく歩き、真新しい十字架の近くまで辿り着くとオレを手で止めた。
一人で前に出て背筋を伸ばし、まっすぐに立つ。

「――報告。報告者、処刑人オズウェル・ミラー。内容、護衛。結果、滞り、なく…終了。損害は書面で報告した通り。
特筆事項、これを以て聖守護隊は全ての任を終え…解散となります」

惜しむような短い沈黙。

「――今までありがとうございました!」

言い終えると同時に深く深く頭を下げるオズ。
少し声が震えていたから泣いているのかもしれない。
オズはしばらく動かなかった。
それから頭を上げ、もう一度お辞儀をし、吹っ切れたような顏で振り返った。

「待たせたな」
「お疲れ様」

心の底からの労いを伝える。
オズは嬉しそうに笑って返し、その言葉をひどく大事そうに言った。


「帰ろう」