中学時代のハント兄弟の日常的なの
「ユアン?そろそろ晩メシの買い物行く時間……手紙?」
「うん」
リオからの返事、と右手に持ったシンプルな便箋をオレに向ける。
写真も一緒にあるのが見えた。
約束の時間を過ぎても出てこないからどうしたのかと思えばこれが理由か。
「あー…。まだやってんの?お前ら二人ともマメだよなぁ」
「まだって、アラゴに黙って止めるわけないだろ」
「何でオレが関係あるんだ」
「リオはオレ『たち』の友達だろ」
たち、と強調されて考えてみる。
確かに知らないうちにやめたと言われたら少しさみしい……かもしれないか?
だけど言われた通りだと認めるのは恥ずかしくて、返事はせずにユアンのベッドに飛び乗った。
膝から着地し、バタリと音をたてて倒れるとユアンが丸めた紙屑を投げつけてくる。
「ホコリが舞うからやめてくれ」
「じゃあ代わりにオレがくしゃみしといてやるよ」
ふざけて言うと、奇跡のようなタイミングでユアンがくしゃみをした。
驚いて顔を見合わせる。
ユアンは照れたように笑いながらもう一つ白い塊を投げてきた。
「失敗してるぞ」
「偶にはそういうこともあるって。で、リオは何て?」
「学校は楽しんでるらしい。あと、あ、そうだ」
「ん?」
「そのまま動くなよ」
ユアンが椅子から立ちあがりオレに圧し掛かってくる。
そのまま背中にまたがると顎の下に手を入れられ頭を持ち上げられた。
「何?」
俯せのままパタパタと足だけを動かし、ユアンの次の動きを待つ。
どういうつもり知らねぇけど苦しいから早く終わんねぇかな。
上から覗き込んできたユアンと下から見上げるオレという変な体勢で目が合う。
顎を支えているのとは逆の手で前髪をかき上げられた。
「よし、治ってるな」
ああ。こないだケンカしたときの傷。
それを見たかったのかと納得する。
満足そうに頷くとユアンはオレの上から降りて机に戻った。
「リオが心配してたぞ。『アラゴの傷は跡形もなく完治。心配しなくても大丈夫だよ』っと」
必要も無いくせに、書く内容を口に出しながらペンを走らせる。
嫌味な奴だな。
「そもそも何でリオがケンカのこと知ってるんだよ」
「オレが教えたからに決まってるだろ」
「余計なことしやがって」
「自分で手紙を出さないからじゃないか。アラゴも一枚くらい書けばいいのに」
「めんどくせぇ」
ベッドから起き上がって机のところまで行き、ユアンのペンケースから中身を一本取り出す。
几帳面な字が並んでいる便箋の空いてるスペースに『日本のチョコバー送ってくれ』と書き足した。
「これでいいだろ」
「……まあ、元気なことは伝わるか」
オレが書いたところに矢印を引いてユアンが『アラゴに払わせるからよろしく』と付け足した。
いいのかよ。リオの奴、オレだけなら冗談って流すだろうけどユアンがそんなこと書いたら本気で送ってくるぞ。
オレとしては願ったりだから黙っておくが、本当に届いた時のユアンの慌てる顏が目に浮かぶようだ。
あぁ楽しみ。
こっそり笑うオレに気づかないまま、ユアンは便箋を半分に折畳むと封筒に入れてノリをした。
「おまたせ」
「できたのか?」
「できた。さ、行こう」
他の仕度はもう終わっていたらしい。
準備の良い事だ。
もしかすると傷の確認と一言書かせるために、オレが様子を見に来るまでわざと待ってたんじゃねぇのか。
絶対違うって言われるから聞いたりはしねぇけど、たぶんそうに決まってる。
「じゃあオレ待たされたから今日はチョコバーは二倍買おうぜ」
「買うだけならいいよ。食べなきゃ。」
「意味がねぇだろ」
むしろ家にあるのに我慢しなといけないなんて余計悪い。
ユアンがうんうんと頷く。
「そうだな。じゃあ買わなくてもいいよな」
バカ言うな。それとこれとは話が別だ。
チョコバーなんて余分にあって困るもんじゃないだろ。
オレを置いて廊下に出たユアンの後を追いかける。
「じゃあ10本」
「じゃあ3本」
「5本。そういえば牛乳全部飲んだから」
「だめ。買い物リストに追加した?」
「4本。した」
「それをオレと半分するなら」
つまり二本。ま、いいか。どうせ足りなくなったらまた買いに行けばいいだけだし。
タンタンタンとリズムをとって大股で歩くとすぐにユアンの背中に追いついた。
「しょうがねぇ。手を打ってやる」
「偉そうだな」
「ユアンが待たせたせいだろ。3時には出ようって言ってたクセに」
「悪かったって」
全く悪気の無い様子で謝りながらユアンが玄関の前で足を止める。
ポケットに手を入れると不思議そうな顏で中をごそごそと探りだした。
「カギ?オレすぐ出るよ」
「なら頼む」
並んでドアを出てからカギを閉めた。
無意識に口にした言葉が、同時に隣からも聞こえてくる。
「行ってきます」
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