セスオズ
「退院おめでとう。ということで、悪魔くんの新居まで案内するから乗ってくれ」
病院の前に止めた車の中から出てきたばかりのセスに声をかける。
予想通りと言えば予想通り、いっそ清々しくなる程に無視された。
あてなんて無いくせにどこに行くつもりなんだか。
「ここでオレを無視するとアラゴに迷惑かけることになるぞ」
「……なぜお前が」
「『新居の用意をする』?それとも『迎えに来る』?両方お仕事だから」
早々に切り札を使うとセスは簡単に足を止めた。
アラゴに説明しといてくれって言ったんだけどな。
あいつ、もしかして迎えに行くのがオレだってところを隠してたんじゃねえだろうな。
オレの答えを聞いたセスは渋々といった様子で乗り込んできた。
意外だな。もう少し反論してくるかと思ってたのに。
アラゴの名前の効果か。
何にせよ仕事が円滑に進むなら文句はない。
振り向いてセスが座ったことを確認し、車を出した。
「はい到着」
結局、車を走らせている間は一言も会話を交わすことなく目的地に着いた。
色々質問されたときのために用意していた答えも幸か不幸か全部無駄になってしまった。
車を止めるとセスは無言で窓の外に視線を向ける。
「ここ。やっと上を納得させたんだから大人しくしててくれよ?」
「ふうん。僕が何かすれば楽にお前の立場を悪くできるわけか」
「悪魔くんサイテー」
どうして発想がそっちに行くんだ。
まあ、ある意味でこれこそセスらしいと言えるのかもしれないが。
「あ、まだ降りるな」
ドアのレバーに手を掛けたセスを慌てて止める。
途端にセスの顔が不愉快そうに眉を寄せた。
本当に正直だよな。
「今度は何」
「先に伝えときたいことがあるんだよ」
こっちと手招きしてセスを呼ぶ。
わざわざ運転席から一番遠いところに座っていたセスは嫌そうに近づいてきた。
胸ポケットに入れておいた紙を取り出し広げる。
「間取り図?」
「そう。言いたくないけど、お前は今超要注意人物扱いなの」
「僕の知ったことか」
「知っとけ。その方が自衛できる。オルクの契約者なんて『元』がついたところで第一級の監視対象なんだよ」
「無駄骨とも知らずご苦労なことだ」
「で、お前の部屋についてなんだが監視カメラとかは無いから安心しろ……とは言えないからなぁ」
セスが見辛そうに頭を動かしたので紙の角度を変える。
運転席と助手席の間から体を乗り出すと、狭い車内で自然と距離が近づいた。
「ここと…ここ。それからここの下」
出来れば監視そのものを無くしてやりたかったが、どれだけ掛け合っても許可は降りなかった。
オレが独断で出来るのはこのくらいしかない。
部屋の図面を指しながらカメラの位置と角度、死角の作り方をそれぞれ説明する。
「中に入ってから説明するわけにもいかないからな。覚えたか?」
聞き終わったセスの顏には不可解だという表情がありありと浮かんでいた。
カメラの場所なんて本人に教えたことがバレたらクビどころじゃ済まない。
セスに入れ込んでるアラゴならともかく、オレがこんな情報を漏らすとは思わなかったのだろう。
俯いたまま考えだしたセスの中で思考の整理がつくのを待つ。
セスは何かに思い当たったように少しだけ目を大きく開くと、急に手を動かした。
あまりの不意打ちに避けそこなってしまい、セスの指先がオレの腕を掠める。
一瞬の熱に体が震えた。
「どうかしました?」
「…いいや別に。手、当たって悪かったな」
「構いません」
それっきりセスはまた口を閉ざしてしまった。
気まずい沈黙。
さっきまでは一応まだマシな空気だったんだけどな。
自業自得としか言いようがない状況に溜息を吐きたくなっていると、驚いたことにセスが先に静寂を破った。
「……オズウェル・ミラー。どうしてここまで僕に関わろうとするんだ」
「仕事だからな」
「それだけじゃないだろ」
証拠でもあるかのように断言されて息を呑む。
気付かれてるとは思ってた。
でもまさかセスの方から言い出してくるとは。
「先代たちの不始末、っていうのも違うけど、オルクに関してはもっとどうにかできた事があったはずだから」
まだオレが正式な隊員になる前の出来事。
千人長たちから聞いた、聖守護隊が助けられなかった少年と悪魔の話。
無力なオレはその時何もできなかったけど、今は違う。
「それだけでもないだろ」
「いいのか?聞いちまって」
「負い目や罪悪感で寄ってこられるよりよっぽどマシだ」
心の中の奥の奥。
こっちは気付かれてないと思ってたのに。
やっぱさっきの反応はマズかったよなぁ。
建前の裏の本音の裏の中心。
セスの頬に手を伸ばし正面から見据える。
目は逸らされなかった。
「……お前に惚れてるからだよ」
オレの告白にセスが嘲笑うように顔を歪める。
「聖守護隊が僕の中で刑事さん以上の存在になれるとでも?」
「なってみせるさ」
半分以上ハッタリの言葉に、セスはオレの手を叩き落とした。
不敵に口角が上げられる。
「せいぜい足掻け、聖守護隊」
BACK