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■ 一日目 ■


日付が変わる少し前。
暗い廊下を月明かりと非常灯を頼りに進む。何があっても対応できるよう建物が無人になることはないとはいえ、常に明かりがついているのは一部の区域だけだ。この辺りを使っている人間は、今の時間帯にはほとんど帰っている。
オレもこの資料を整理したら早く帰ろう。
早く仕事のペースを掴まないといけないなと自嘲しながら歩いていると、前の部屋のドアの隙間から薄っすらと明かりが漏れているのが見えた。
嵌め込まれたプレートに書かれている名前は『オズウェル・ミラー』
まだ残っているのか。あいつも大変だな。
せっかくだから顔を見ていこうと思ってノックをする。しばらく待っても返事がない。
……どうしたんだろう?
あいつに限って、中で倒れているなんてこともないだろけど、万が一ということもある。
心配になってドアを開けると、予想に反して部屋の中には誰もいなかった。
なんだ、どこか休憩にでも出ているのか。
想像していた最悪の事態ではなかったことに安心しながら改めて部屋を見回すと、机の上にオズが使っているノートパソコンが開きっぱなしになっているのが目に入った。
無用心だな。
捜査資料なんかも入っているはずなのに。
せめて閉じておこうと近づくと、スピーカーから呻き声のような音が漏れていることに気付いた。不思議に思いながら机の反対側に回る。
「なっ…!」
液晶には裸で絡み合うアラゴとセス君の姿が映されていた。鮮明な映像とは言えなかったが、見間違えるわけがない。
どうしてこんなものが。
「あちゃー…タイミング悪いな」
困ったような声が聞こえてきて、反射的に顔を上げる。
驚きに固まっていた思考が動き出す。
「オズ! どういうことだ!」
「見りゃわかるだろ。盗撮ってやつだ」
「犯罪じゃないか!」
「いいや、むしろ国からの命令でね」
「そんな……」
思いもしなかった返事を聞いてうろたえるオレに、オズが静かに微笑んだ。後ろ手に部屋の鍵を閉め、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
「監視対象なんだよ、まだ。他の奴らにやらせるよりマシだろ」
「だからってアラゴたちのプライバシーは」
「国家の安寧のためなら、そんなもん軽く吹き飛ぶんだ」
オレの言葉を遮り、肩を竦めながらオズが平然と言い切った。
「アラゴに―」
まるで罪悪感の無い態度に、何を言っても無駄だと悟る。部屋を出て行こうと足を踏み出した途端、腕を掴まれた。
「言われちゃ困るんだよな」
「離せ! !」
「そう怒るなって。見入ってたクセに。お前も気持ち良くしてやるから」
「―っ! やめろ!」
掴まれた腕を強く引かれてバランスを崩す。
職業柄それなりに鍛えているつもりだが、向こうはそれ以上だ。
『それなり』で対抗できるはずもない。
あっという間に床に押し倒された。うつ伏せになったオレにオズが上から覆いかぶさってくる。
「安心しろ。この部屋、防音だから」
「や、めろっ…! はなせっ…! !」
「大丈夫、大丈夫」
片手で器用にオレのベルトを外し、服の隙間から手を差し入れてくる。少し荒れた手のひらがざらりと腰を撫でた。
この状況で何をされるかわからないほど世間知らずでもない。
「オズっ! !」
「大丈夫だよ」
子どもをあやすような甘い声。
何が大丈夫なものか。
大丈夫なわけがない。
こんな男だとは思わなかった。
見抜けなかった悔しさに涙が浮かんでくる。オズに気付かれないうちに拭おうとするが腕が動かなかった。拘束されていることを改めて思い知らされる。オズが息だけで笑い、オレの眼鏡を外した。
床に膝をついたままの体制でズボンと下着を下ろされ、前だけを執拗に弄られる。ゆるゆると揉まれて、萎縮しきっていたオレのモノが次第に大きさを持ちだした。
直接与えられる肉体的な快感は、意思の力だけで我慢し続けられるものではない。
「オズ…離、せ……」
「イく? いいぜ。ほら」
「―っ! ……は、ぁ…はぁ…はぁ…」
先端のくびれている部分をぐるりと親指でなぞられて、耐え切れずオズの手に精を放った。
射精の脱力感に全身が包まれる。少しでも拘束が緩んだら抜け出そうと腕と足に力を入れ続けていた反動で体力の消耗がひどい。
がくりと床に崩れ落ちそうになり、オズに支えられた。
「これで終わりだなんて思ってないよな?」
「……好きにしろ」
これ以上失望したくなくて、何も見なくて済むように腕で顔を覆う。
「ああ、そうさせてもらう」
膝まで落ちていたズボンを全て脱がされた。手を引いて体を起こされる。オズがオレを抱えながら机の方に歩きだした。
スピーカーから漏れるアラゴの声が再び耳に届きだす。
「い、やだ…そっちは……」
「監視だって言っただろ」
オズが椅子に座り、その上に体を乗せられる。左右の肘置きを使って大きく足を広げされられた。
画面の中では先ほどの続きが行われている。セス君が動くとアラゴが気持ち良さそうに声を上げる。
見てはいけない。
そう思うのに目が離せない。
「アラゴには黙っててやるから安心しろ」
耳元で見透かしたように言われて、全身に血が上るのを感じる。抱えられたまま後ろから両手が伸びてきて、行為の続きが始まった。
勃ち上がったモノの上から下まで滑るように指が動くと、更に奥に向かって這わされる。さっきまでの名残で濡れた指は本来は出すだけの場所に抵抗なく入り込んだ。
「うっ…」
「すぐ、アイツと同じように気持ち良くしてやるからな」
痛みはほとんど無いが圧迫感が気持ち悪い。皮膚が無理矢理拡げられる。引き攣るような感覚。
だけどそれは最初だけで、オズは言葉通りあっという間にオレの前立腺を探り当てた。
「―うあぁっ…!?」
「ここだな」
「んッ…うっ…あぁっ…!」
強すぎる刺激に声を上げることしかできない。
頭が真っ白になる。
耳に届くのが自分の声なのかアラゴの声なのかわからなくなる。
「二回目。イけよ」
中の感じるところを押されるのと同時に限界まで張り詰めていたモノを上下に扱かれる。
「―ああぁあっ!」
暴力的だと思えるほどの快感が体を通り過ぎる。
力が入らない。
オズに支えられていなかったら机に倒れこんでいた。
「はぁ…っ…はぁ…」
息を整えながら知らないうちに閉じてしまっていた目を開ける。
アラゴが画面のなかでイった