02/0202
久しぶりにユアンと休みが一致した日。
二人で買い物に出かけた帰り道、肩を叩かれて振り返ると塀の上に一匹の白い猫が座っていた。
手のひら一つ分くらいの幅しかないのに器用なものだ。
感心しながら一歩近寄ってみると拒むように小さく鳴かれた。
首輪はしていないから野良かもしれない。
ちらりと見上げてくるユアンに首を振った。
生憎と猫にやっても大丈夫そうな食べ物は持っていない。
「そっか」
ユアンが少しだけ残念そうな顔をする。
猫の方もオレたちを相手にしていてもエサにはありつけないと察したらしい。
もう一度にゃあと鳴くと、そのまま塀の向こう側へ姿を消してしまった。
「行っちまったな」
「ああ。オレたちも帰ろう」
バイバイと壁に向かって振った手で背中をぽんと叩かれ、オレたちは再び歩き出した。
ソファーに寝転がったまま、隣で本を読んでいるユアンの髪に手を伸ばし、くるくると弄る。
ユアンは全く気にしていない様子で黙々とページを進めている。
たまに聞こえる紙を捲る音が気持ちよく、睡魔の訪れを感じていると、不意にユアンが口を開いた。
「帰り道、可愛かったな」
帰り道?
何のことだろうと記憶を辿り、すぐに思い至る。
「お前、猫好きだっけ?」
「人並みに」
「そういやあの猫、アラゴっぽかったな」
銀にも見える白い毛並みを思い出しながら言うと、ユアンが首を傾げた。
少し考え込んでから、ぽつりと呟く。
「……色?」
「色」
「ははっ、確かに!そういえば子どもの頃、捨て猫を拾ったことがあったんだけど」
「ユアンが?」
少し意外に感じた。
アラゴなら動物だろうが人だろうが妖精だろうが、ほいほい拾ってきても違和感はない。
だけどユアンはそういう『自分で責任がとれないこと』については、それなりに割り切れるタイプだと思っていた。
思わず挟んでしまった疑問にユアンが苦笑気味に答える。
「目が合っちゃったんだよ。そういうことあるだろ」
「まぁ確かに」
「結局、近所の人に貰ってもらった」
「良かったじゃねぇか」
「ああ。でもその時は落ち込んじゃってな。そしたらアラゴが今日だけオレが猫になってやるって言い出したんだ」
懐かしそうに目を細めるユアン。
微笑ましく思うと同時に羨ましくなる。
我ながら嫉妬深いな。
「……なぁユアン。『にゃあ』」
丸く握った手を顔の横で動かす。
ユアンは不思議そうにオレが言った言葉をそのまま繰り返した。
「……にゃあ……?」
「『にゃあにゃあ』」
もう一度猫のように鳴くと、オレの意図を察したらしい。
軽く噴出し、笑いながら本を閉じてオレの頬を指でつついた。
「何?オレに飼ってほしいのか?」
「飼ってくれる?」
「オレの躾けは厳しいからオズに耐えられるかなぁ?」
腹を出し、服従のポーズをとるオレを見て、ユアンがからかうように口の端を上げる。
そのままつついていた頬を楽しそうに摘んだ。
「喜んで。お前好みに育ててくれよ」
「はははっ!いい子だ!」
勢いよく体を倒して覆うように被さってくるユアンを抱きとめ、目の前にきた首筋をペロリと舐めた。
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