オズさんに噛み付くユアン

バスルームを出るとソファーに人がひとり倒れていた。

「ユアン?おーい、ユアン」
「……つかれた」
「見りゃわかる。上着ぐらい脱げよ。皺になるぞ」

うつ伏せになっているせいで少し声が聞き取りづらい。
タオルで自分の髪を拭きながら忠告すると、数秒置いてユアンがもぞもぞと動き出した。
器用に横になったままスーツのジャケットを脱ぐと、そのままソファーの背もたれにばさりとかける。

「……よろしく」
「はいはい。アラゴには見せらんねぇ姿だな」
「うるさい」

今にも床に滑り落ちそうな上着を拾い、ハンガーにかける。
そのままキッチンに行ってコーヒーを淹れて戻ると、いつの間にかユアンは起き上がってオレを待っていた。
持っていたカップを2つともテーブルに置いてユアンの隣に腰をおろす。
淹れたてのコーヒーの香りが漂ってくる。

「……いい匂い」
「だろ?いい豆見つけたんだ」

ふわりとユアンが寄りかかってきた。
そのままにしておくと、だんだんと重力に負けるように体が崩れていく。
最後のはオレに膝枕されているような状態になった。
太ももにぐいぐいと押し付けてくる頭を撫でてやる。
本当に珍しいなと驚いていると、突然肩を掴まれ押し倒された。
さっきまでのユアンを仰向けにしたような体勢。
いきなり何するんだ。
肘置きで背中を支えながら見上げると、ユアンが背もたれとオレの体の間に膝をねじ込んきた。
押さえ込むように腹の上に座られ、両手で顎を固定されてキスされる。
反射的に口を開くと貪るように舌を絡められ、息継ぎもままならなくなる。
苦しい。こいつ、絶対に加減を間違えてやがるな。
だけどここまで様子のおかしいユアンを無理やり押し退けるのも躊躇われる。

「……はぁっ…はぁっ…」

ようやく解放されて酸素を求めていると、その隙を狙うようにユアンがオレの首筋に沈んだ。
何かを探すように顔を動かす。
直後に鎖骨に歯を立てられた。

「っ!」

思わず上げてしまった声に反応しユアンが顔をあげた。
目が合うとニヤリと笑う。
もう一度同じ場所に唇を寄せ、今度はかなり強く噛みついてきた。
予想して構えてなければ叫んでいたかもしれない。
大きく口を開けたまま、舌で肌の上をなぞる。
舐められたところが熱い。

「ん…んぅ…」
「――っ!」

ユアンは何度か噛んだり舐めたりを繰り返すと満足したらしく、オレに並ぶように体を倒してきた。
背中に腕を回してソファーから落ちないように支えてやる。
もぞもぞと角度を調整し、すっぽりと収まる場所を見つけると満足したように息を吐いた。


「……もういいのか?」
「ああ」

腕の中ですっかり大人しくなったユアンと額を合わせる。
あーあ、赤くなってるだろうなあ。

「お前時々変なスイッチ入るよな」
「悪いか?」
「いや?ゾクゾクする。ここも噛んでみろよ」

自分から喉を少し反らしてユアンの前にさらす。
鍛えようのない柔らかい部分。
急所。
傍から見ればさぞ無防備に見えるだろう。
ユアンはオレが言われたとおりの場所に軽く歯を立ててからぺろりと舐めた。

「喰われるみてぇ」

たまにはこういうのも悪くない。
手を伸ばし、唾液に濡れた唇を人差し指で撫でる。
ユアンはクスクスと笑いながらいただきますとオレの耳元で囁いた。