お礼

地下鉄での事件から数日後。
お礼をしたいから家を教えて欲しいと言われて断ると、代わりに刑事さんの家に招かれた。
どこかのカフェや軽食堂では都合が悪いらしい。
ある意味で予想通りの散らかった室内に通され、ベッドの前に立つと刑事さんが足を止めた。
そのまま自分のシャツの裾に手をかけると、潔いほどに勢いよくシャツを脱ぎ捨てる。
僕の目の前で刑事さんの上半身の肌があらわになる。

「……どうして脱いだんですか?」
「お礼するからだろ」
「……どうして脱がせようとしてるんですか?」
「だからお礼するからだって」

不思議そうに首を傾げる刑事さん。
会話が噛み合わない。

「…刑事さん、大切なことを聞き忘れていましたが、お礼とは何をしていただけるんですか?」
「お礼はお礼だろ」

状況的に推測はできるが、刑事さんの性格とこれからされるであろう行為がどうしても結びつかない。
確かに『お礼』と称して性的な何かを要求したり差し出したりする関係も存在する。
だけど良くも悪くも単純なこの人にはその思考は似つかわしくない。
考え込んでいるうちに、シャツを脱がされ、ズボンの前のボタンを外されていた。

「旅してる時に、教えてもらった方法だよ。ほらセス、座れって」

促す声に流されるようにベッドに腰掛けると、刑事さんが僕の前に膝をついた。
躊躇いなく僕のモノを口に含む。
普段の子どものような行動からは想像もできないような巧みな舌使い。
思わず刑事さんの頭に手を置いて動きを止めさせる。

「…はぁっ…お上手ですね…刑事さん、いつもこんなことを…?」
「いつもじゃねぇって。本当に感謝してるときだけ」

咥えたまま返事をされ、それがまた刺激になった。
筋を舐め上げられ括れた部分を丁寧になぞられる。
先端を吸われ、あっという間に昇り詰めさせられた。
刑事さんは口に出された僕の精液を当然のように飲み込んだ。
ここで区切りとすることもできるのに、終わるつもりは無いようだった。
体を起こしてズボンを脱いだ刑事さんに優しく押し倒される。

「準備も自分でやりたいって奴もいたけど、お前はそういうのめんどくさがるタイプだろうと思って先にやっておいた」

気遣うように腹に跨られ、ようやく気付く。
刑事さんはどこかを怪我している。
たぶん今日のために自分から傷を作ったのだろう。
直接肌に触れているのに、僕が火傷のひとつもしないというのはそういうことだ。

「刑事さん、ストップ」
「どうした?」
「ここから先は僕が」
「ガッチャ」

刑事さんは小さく頷くと僕の上から降りて大人しくベッドに横たわった。
仰向けになった刑事さんの膝を持ち、足を開かせる。
言葉通り、ソコは纏めた指二本でも簡単に飲み込むほど解れていた。
慣れているということを改めて思い知らされ、理由のわからない怒りが沸いてくる。
悟られないように、挿れた指を乱暴に動かした。

「あっ…!ふぁ…!イイ…あ、そこ…!」
「ココですか?」
「あぁあっ!!」
「僕へのお礼なのに、自分が気持ちよくなってどうするんですか」
「お前も、だいぶ…っ、ノってきたじゃねぇか…!」

苛立ちを紛れにからかうような声で言うと、楽しそうに返された。
荒くなった息遣いが興奮しているとストレートに伝えてくる。

「ここまでくれば、さすがに」
「んンっ…!」
「挿れますよ」

返事をしようと刑事さんが口を開けたタイミングを狙って一気に押し込む。

「――うああっ!」

不意をつかれた刑事さんは予想通りに高い声をあげながら体を逸らした。
縋るように必死にしがみついてくる。
少し苦しかったけど、それ以上に満足感のほうが強かったのでそのままにさせておく。

「っ…!セ、スっ…!セスっ…!」
「刑事、さん…っ!」

突き上げるたびに刑事さんが喘ぎ声をあげて中を締め付けてくる。
熱くて柔らかくて気持ちイイ。
絡みつくように押し寄せてくる快感に耐え切れず中に熱を放った。





「それにしても刑事さんの貞操観念がここまで狂ってるとは」
「バーカ。簡単に騙されるなよ。お前らしくねぇな」
「……どういうことです」
「年単位で放浪してたんだぜ?さすがに自分がやってることの意味くらい分かってるって。お礼だけでこんなことするか」

呆れたように笑われるのが納得いかない。
普通に考えればそうだろう。
だけどこの人なら有り得るかもしれないと思ってしまった。
刑事さんが日常的に破天荒な行動をとるのがいけない。

「それでは何故?」
「お前とシてみたかったってのが一番の理由」
「素直じゃありませんね」
「好きだって言っても、今のお前には荷物になるだけだろ。だからまずは体だけでいいかって」
「なっ!」
「逃げ道やるから、あんまり怒るなよ。オレが寝たら出て行っても、残っててもいいぜ。――おやすみ」

刑事さんが僕から顔を隠すように寝返りをうつ。
冗談じゃない。
逃げ道だと言ったそれは、この上ない挑発だということを分かっているのか分かっていないのか。
一方的に告げられたのなら、こっちだって返事を聞いたりはしない。
勝手に決めさせてもらう。

「――お礼、今日だけで終わると思わないでくださいね」

耳元で囁くと刑事さんの体が僅かに震えた。