誕生日(学パロ子ども時代・ハント兄弟)
「ユアン!買い物行くって!ケーキ!」
「すぐ行く!」
母さんに言われてユアンを部屋まで呼びにいく。
ドアを開けると、机で何か書いていたユアンはバタバタとそれを引き出しにしまった。
「早くしろよ」
「わかってるって」
壁をコンコンと叩いてユアンを急かしながら廊下で待つ。
ノックが遅いと言いながらユアンが椅子から立った。
ちゃんと鞄を持っているのを確認し、二人で母さんのところに走り出した。
目の前のガラスケースに美味しそうなケーキがたくさん並んでいる。
今日はその中でも特別な丸いケーキを食べられる日。
オレたちの誕生日。
「どれがいい?」
「チョコの方!」
こっちとこっち、と順番に指差して母さんが聞いてきた。
迷う必要もない。
母さんはオレの返事に頷いてからユアンの方を向く。
「ユアンは?」
「アラゴがチョコならチョコ」
2つのケーキを見比べていたユアンは聞かれた途端にそう答えた。
何だよそれ。
「バカ。自分が食べたい方言えよ」
「でもどっちも美味しそうで選べないよ。だったら、チョコじゃない方にしてアラゴが嬉しくないのとチョコの方にしてアラゴが嬉しいのなら、アラゴが嬉しい方がいい」
「それもそうね」
困ったように笑うユアンを母さんが撫でた。
違う。母さんは何にもわかってない。
お店の人を呼ぼうとする母さんを、服を引っ張って止める。
「……チョコじゃない方にして。こっち」
オレは母さんが頼もうとしたヤツの隣のケーキを指差した。
母さんが不思議そうにオレを覗き込む。
「急にどうしたの?」
「だってユアン、こっちの方見てる時間が長かっただろ。本当はこっちがいいんだ。オレだってユアンが嬉しい方がいい」
「まぁ」
驚いた母さんが手のひらで口を隠す。
ユアンを見るとほっぺたが赤い。
やっぱりな。オレを騙せると思ったら大間違いだ。
母さんはオレとユアンをかわりばんこに見て、にこにこしながらお店の人に注文を伝えた。
「あ、母さん!プレート2つ!2つにして!オレ、チョコの!」
「はいはい」
1つの丸いケーキ。
オレの名前とユアンの名前が1個ずつ乗せられた。
チョコじゃなくてもケーキは美味しかった。
だから自分が食べたい方言えって言ったんだ。
オレがチョコがいいって言うのなんて決まってるんだからユアンが他のって言ってくれないとバランスが悪いんだよ。
来年もこれでもいいと伝えるとユアンは嬉しそうに肩をすくめた。
ケーキを食べ終わってしばらくすると、もう寝なさいと部屋に帰された。
まだ全然眠くないのに。
それでも大人しく言うことを聞いたのは、ユアンを早く部屋に行かせたかったからだ。
さっきこっそり置いてきたサプライズはそろそろ見つかったかな。
ユアンの反応を想像し、わくわくしながら自分の部屋のドアを開けて電気をつける。
部屋が明るくなると、最初に机の上にチョコバーが乗っているのが目に入ってきた。
やべ。出しっぱなしは怒られる。
慌てて駆け寄るが、よく見るとそうじゃないことに気付いた。
あったのはチョコバーと、それを重しに置かれている『HAPPY BIRTHDAY』の文字が書かれたカード。
マジかよ。
驚きに固まっていると、隣の部屋から大笑いする声が聞こえてきた。
「ユアン!大声出すと母さんに怒られるぞ!」
「アラゴっ!ははっ!おそろい!」
たぶん机の上にチョコバーとオレからのカードを見つけたんだろう。
まさかユアンも同じことするなんて思わないじゃないか!
「うっせぇよ!まねっこ!」
「ははっ!お前だろ!」
とりあえず笑い声を止めようとドアを開けると、ちょうど同じタイミングでユアンが部屋から出てきた。
顏の横に掲げたチョコバーとカードを小さく振ってオレに見せる。
「ありがと。アラゴ、ハッピーバースデイ。おやすみ。明日もよろしくな」
「……ハッピーバースデイ、ユアン。おやすみ」
勢いよくドアを閉めてベットに飛び込む。
悔しかったり恥ずかしかったり嬉しかったり。
やっぱりしばらく眠れそうにない。
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