生クリーム



入口にクローズドの札を掛け営業終了を外に示す。
ブラインドを下ろして目隠しをすると店内の清掃にとりかかった。
今日はオズが新しいデザートの試作品を作ってくれるのでいつも以上に気合を入れる。
楽しみがあると自然と作業も早くなるってもんだ。

「オズ、掃除終わったぞ!」
「もう?今日は早いな」
「さっきからいい匂いがしてるから大急ぎで終わらせたぜ!」
「悪いが、こっちがまだ全部終わってねぇんだ」

生クリームを絞りながらオズが苦笑いで応える。
話しながらでも器用に動き続ける手元を覗きに行くと、小さなカップケーキに生クリームとカラフルなフルーツが乗せられていた。

「美味そうだな!」
「お褒めにあずかり光栄。味も結構な自信作だ」

オズが自信作と言う時は本当に美味い。
期待に思わず声が漏れる。
あとどれくらいで完成するのか訊こうとしたところでキッチンの外から声が響いた。

「オズー!小麦粉運ぶの手伝ってくれ!」
「おう!今行く!」

ユアンの頼みにオズは二つ返事で手を止め、エプロンを外した。
……あーあ、まだしばらくかかるか。
お預けを食らった気分になると、オズがオレの頭を小さく叩く。

「アラゴ、こっちの4つは試作品として全員で批評するやつだからそのままにしておいてくれ。残りのヤツは好きに食っていいぞ。クリームとフルーツも好きにしろ」
「マジで!?」
「そんな凹んだ顏されたらサービスの一つもしなくちゃって気になるからな」
「サンキュー、オズ!」

オズが持っていた生クリームの袋を受け取り、フロアに出ていく後ろ姿を見送る。
好きにってことはクリーム山盛りかけていいってことだよな。
あ、でもオズがやってたみたいにクルクル綺麗な模様を作るのもやってみたい。
まずはそっちをやってみて、失敗したら盛ろう。
そう決めてドキドキしながら手に力を込めると妙な抵抗を感じた。
袋の先からは何も出ない。
…詰まってるのか?
もう一度、今度は少し強めに絞るがやっぱり何も出てこない。
おかしいな。
金具が悪いのかと覗き込もうとしたところで、不意に声をかけられた。
顔をあげると不可解そうにセスがオレを見つめている。

「どうしたんですか?」
「あ、セス。いや何か生クリームの袋が詰まったみた―」

――ビュッ

袋の先をセスの方に向けた途端、どれだけ押しても何の反応もなかったそこから勢いよくクリームが飛び出した。
避けろと言う間もなく、セスの顏に白いクリームが飛び散る。


「…袋が、何ですって?」
「うわあぁ!わりぃ!詰まってたんだよ!」

これ以上ないくらいに冷ややかな声を出され、慌ててセスに駆け寄る。
幸い目に入ったりなどはしていないようで、少しだけ安心した。
怒っているのは単にベタつくのが不愉快なだけのようだ。
近くにクロスが見当たらず、とりあえずセスの頬についているクリームだけでも指で掬って舐める。

「ちょっと、アラゴさん…!?」
「悪かったな。あぁ、それにしても生クリーム勿体ねぇ…」
「言うことに欠いてそれですか…!」
「……さすがオズが作っただけあって美味い」

素直な感想を言っただけだったのに、セスの表情が恐ろしいほどに凍りついた。

「わかりました」

言葉と同時に足払いをかけられ、全く構えてなかったオレはあっという間に床に倒れる。
セスはそのままオレに馬乗りになり生クリームの袋を奪うと、中身をオレの顏目掛けて押し出した。

「すいません、クリームが飛んじゃいました。勿体ないですね。僕が綺麗に舐めてあげますから、動かないでくださいね?」