ハロウィン
「トリックオアトリート!」
ドアを開けながら子どものセリフを叫び、満面の笑みでアラゴが部屋に入ってきた。
ノックくらいしろ。
だいたい、さもハロウィンだからお菓子をねだりに来たみたいに言うんじゃねぇ。
理由が無くたっていつも普通に来てるだろ。
とは言ってもここまで全部予想通りであることも間違いない。
机の上に出しておいたチョコバーの袋を投げる。
「来たな。ほらよ」
「何だよ、つまんねぇ」
「自分の普段の行動を振り返ってみろ」
アラゴは不貞腐れた顔で袋を開けるとそのまま一息に食べきった。
よくあんな甘いものをあんなスピードで食べられるものだ。
「ごちそうさま。おかわり」
空いた袋をゴミ箱に捨てたアラゴが手のひらを差し出してきた。
呆れながらも引き出しの中からもう一つ取り出し机越しに投げる。
「ほい」
「ごちそうさま。おかわり」
「…ほら」
「ごちそうさま。おかわり」
「……ん」
「ごちそうさま。おかわり」
「もうねぇよ」
同じやり取りを三回繰り返したところで手持ちが尽きた。
いつもなら二本食わせりゃ満足するのに何で今日に限ってそんなにしつこいんだ。
『からっぽ』と両手を振って示すと、アラゴが目を輝かせながら身を乗り出してきた。
「マジで!?」
「何で嬉しそうなんだよ」
「じゃあ改めてトリックオアトリート!」
アラゴのポケットの中で存在を主張している不自然に膨らみ。
部屋に入ってきた時から、まぁ、気づいていた。
何か悪戯の用意でもしてるんだろうな。
引っ掛かってやるのも面白そうだが、この忙しいタイミングで部屋をぐしゃぐしゃにされでもしたら正直困る。
甘いもん、ねぇ…。
オレがどう返すのかをアラゴが期待に満ちた表情で待っている。
そんな顔を見せられたら応えないわけにはいかねぇよな。
朝から座りっぱなしだった椅子から久しぶりに立ちあがり、アラゴの隣まで近づいた。
「なに?」
無防備にオレを見上げてるアラゴの顎に手を添える。
そのまま少し角度を上げさせて唇を重ねた。
驚きに口が開かれたところで舌を滑り込ませる。
距離をとろうとする頭を後ろから押さえ、逆に口付けを深くした。
逃がすはずもない。
しばらく舌を絡ませていると徐々に抵抗の力が弱まっていく。
すっかり大人しくなったのを確認してから解放してやった。
「甘いキス、なんてな」
「バ…っカじゃねぇの!?恥ずかしい奴!」
顔を真っ赤にしたアラゴが手の甲で口元を隠した。
可愛いヤツ。
悪戯が大成功を収めた気分になりアラゴに向かってもう一つ囁く。
「おかわりいるか?」
長い葛藤の末にアラゴは小さな声で答えた。
「…………いる」
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