暇
「ヒュー!ヒュー!!」
探し人の名前を呼びながらいくつめかのドアを開ける。
ここにもいない。
あぁもう何でいねぇんだよ。
次もいなかったらどこかに出かけてるってことにしよう。
半分諦めながら最後の心当たりの部屋に入ると、ようやく目的の相手を見つけた。
「ヒュー?」
薄汚れた床の上で横向きに転がっている身体。
近寄ると胸板が規則正しく前後しているのに気づいた。
なんだ、寝てるのか。
いつも眉間に寄ってる皺が消えると仏頂面も可愛く見えるのが不思議だ。
「無防備に寝やがって」
王様の居城とはいえ、オレが護りをしているとはいえ、気を抜くにもほどがあるだろう。
溜息を吐いてハデスを影から呼び出す。
ヒューが目を覚まさないよう小さな声で指示を伝えた。
こくこくと頷いたハデスは慎重にヒューに歩み寄り、頭の前に座ってオレの命令を待つ。
オレが手で合図するとヒューの顔を跨ぎ足を折った。
つまりヒューの顔を腹に敷いて伏せをした状態。
そのまましばらく待つ。
ヒューの手が何かを振り払うように宙を切った。
おもしれぇ。
段々と動きが大きくなり、明確な意図を感じられるように…ってか普通に息苦しいんだろうな。
気の毒なことだ。
続きを観察していると、両手が頭の方に伸び、迷いのない力強さでハデスの体が持ち上げられた。
顕わになったヒューの顏はいつものような無表情のように見えて、隠しきれてない焦りが浮かんでいるのがわかる。
オレは笑いを抑えながらヒューに声を掛けた。
「あーあ。ひでぇなヒュー。折角ハデスが気持ちよく寝てたのにムリヤリ起こすなんて」
絶妙なタイミングでハデスが鼻を鳴らして哀れを誘う。
グッジョブ。
ヒューの眉がピクリと動いた。
「可哀想になぁ?これはお詫びにヒューがハデスと遊んでやるしかねぇな」
さらに畳み掛けると、ヒューがこちらに視線を寄越し淡々と返してくる。
「……オレは死にかけたと思うんだが」
「ハデスがそんなことするわけないだろ?ま、お前がそういうならそういうことにしてやってもいいけど」
空中から降ろされたハデスは今は半身を起こしたヒューの膝の上に乗っている。
パタパタと揺れる尻尾が動く度にヒューの体を叩いていた。
大サービスじゃねぇか。
「じゃあしょうがねぇ。お詫びにハデスがお前と遊んでやるよ」
嬉しいだろ?と訊くと、ヒューが短くオレの名前を呼ぶ。
「ルシアン」
「ん?」
「暇なら素直に言え」
「ヒマだ」
即答したオレにヒューが言葉を詰まらせる。
わかってんだろ。ヒマなんだよ。
取り繕おうとも思わないくらいだ。
オレに構えよ。
黙って反応を待っていると、ヒューの表情が少し優しいものになった。
「……わかった。相手をしてやる」
「サンキュー!」
立ちあがったヒューは後ろからハデスの前足を持ち上げ、二本足で歩かせながらオレに近づいてきた。
オレはしゃがんで、ハデスに呼びかける。
「ハーデス!来い来い!遊んでやるぞ!」
辿り着いたハデスをヒューごと抱きしめた。
ふかふかの温もり。
そんなただの暇潰し。
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