オズアラ日常



「戻りましたー。ほら、オズ。コーヒー」
「サンキュー!」

オレが書類を出しに行ってる間にみんな出払ってしまったのか、部屋にいたのはオズ一人だけだった。
部屋から出るついでにと頼まれたコーヒーを渡すと、オズは嬉しそうにそのまま口に運ぶ。

「はぁ、生き返るー……」

嬉しそうに。
そのまま。

既に何回か見ている光景をどうにも納得いかないままの気分で眺めていると、不思議そうに視線を返された。

「何?」
「ソレ、苦いとか思わねぇの?」
「ん、別に?アラゴはブラックでは飲まないんだったか?」
「別に。ただ、オズはうちのコーヒーの本当の美味さを知らなくて可哀そうになーと思って!」
「何なに。どういうことだよ」

自分の分のコーヒーを飲みながら開けたばかりのチョコバーに歯をたてる。

「そのコーヒーはチョコバーと一緒に飲むのが一番美味いんだよ」
「ふーん。じゃあ一本くれ」
「残念。いま俺が喰ってるのが最後だ」
「そっか。じゃあしょうがねぇな」
「ああ、大人しく諦め――」

顏が。
近づく。

『いただきます』

口の動きが言葉をなぞった。
目の前で齧り取られ、一口分短くなったチョコバーを落とさなかったのは我ながらよく耐えたと思う。
貴重な最後の一本の貴重な残り半分。
だけど何故か続きを食べられる気がしない。

「オズ!てめぇ、オレのチョコバー!」
「んー、確かに組み合わせの妙だ。コーヒーが一層美味い。」
「オレの!チョコバー!返せ!」

暢気にカップを傾けている姿が頭にきて怒鳴る声も途切れ途切れになる。

「わかったわかった、そんなに怒るなって」

オズが引き出しをあけると、いつもオレが食べているのと同じチョコバーが出てきた。
口をふさぐように袋を押し付けられオレも黙る。
持ってるんだったら自分のを喰えよ!

「ほら」

まあ、一口だったし新しいのをくれるなら許してやるか。
たぶんさっきの変な感じも気のせいだろう。
そう思ったのが甘かった。
再び顔が近づく。
チョコバーの上から伝わる軽い衝撃。
唇の向こう側のチョコバーの向こう側にある唇。
驚きのあまり動けないでいると、そのままチョコバーが抜かれた。

「ごちそうさま」

今度ははっきりと音で伝えられた言葉が我慢の限界だった。