三人家族



朝おきて最初にするのはおはようのあいさつ。
ママからわたしへキス。パパからわたしへキス。
わたしからママへキス。わたしからパパへキス。
ママからパパへキス。パパからママへキス。
これでぜんぶ!

「おはようございます!」
「ん、おはよ」
「はい、おはようございます。よくできました」

ちゃんとあいさつができるとごほうびにママが頭をなでてくれて、パパが抱っこしてくれる。
本当はごほうびなんてなくてもパパとママが忘れちゃダメっていうならぜったいに忘れたりしないけどなでられるのも抱っこされるのも嬉しいから、これはわたしだけのひみつ。

「何時ごろ出ればいいんだっけ?」
「何度言えばいいんですか。10時です」
「Got ya!さすがオレの嫁だ」
「返事だけはいいんですから」
「がっちゃ!」

ママが嬉しそうだからわたしもパパの真似をしてみた。
そしたら二人とも喜んでくれた。
なでられた。
えへへ。

今日はとてもドキドキする日。
ママから起こされる前に目が覚めるのなんて初めてかもしれない。
パパの腕があったかいからもう一回寝そうになっちゃったけど。
でもやっぱりドキドキして寝れなかった。
だって特別な日なの。
パパとママと手を繋いでおうちを出る。

今日はアンズの誕生日。

「アンズ!」
「アセロラちゃん!」

アンズの家につくとドアの前でアンズが待っていた。
わたしが呼んだとたんに駆け寄ってくる。
いっつも待てない子なんだから。
おねぇちゃんのわたしがキチンとできるところを見せてあげないと。

「こんにちはオズくん!ユアン!」
「おう、よく来たな」
「こんにちは。いらっしゃいアセロラちゃん」

わたしは玄関からでてきたオズくんとユアンに”こんにちは”を言った。
これがおとなのやりとりよ。

「ねぇ、アセロラちゃん。ぼく大きくなったよ。けっこんしよう?」

見てなかったわね。
聞いてなかったわね。
せっかくわたしが見本をみせてあげたのに、アンズは何の反応も見せずわたしの手をひいてねだってくる。
もう、何度言ったらわかるの。

「ユアンとけっこんするからダメ。それに弟とおねぇちゃんはけっこんできないでしょ?」
「でも…」

ダメなものはダメ。
おねぇちゃんとして教えてあげると、アンズはうつむいてしまった。

「おい、アラゴ。どういうことだ」
「いや、前にアセロラにアンズの事を”お前の弟みたいなもん”って言ったら変な勘違いしたみたいで」
「それで…」
「まぁ、大きくなれば自然と分かると思うんだけど…」
「だな」

パパとオズくんが何か話してる。
でもわたしはアンズの目にうかび始めた涙をどうやってとめるか、それだけでいっぱいだった。
今日は特別な日。

「もー。特別だからね!」

ちゅ

パパもママもわたしにはしてくれない特別な場所にキスしてあげた。

「泣かないの。これでアンズがどれだけわたしに特別か、わかったでしょ?」

けっこんなんて出来なくても特別なの。
パパとママの好きと同じくらい、オズくんとユアンの好きと同じくらい特別なの。
ぽかんとしたまま口を抑えるアンズに教えてあげると、ようやく笑顔がもどってきた。
にこにことアンズが手をつないできてわたしに言う。

「アセロラちゃん大好き!」
「知ってるわよ。わたしもアンズ大好きだもん」