面会の許可が降りてすぐにアラゴが見たことのない少年と一緒に見舞いに来た。
恐らくオズの話に出てきたセスという少年だろう。
説明されなくても特別な関係なのだろうと一目でわかった。
仕事の合間にすこしだけ時間をもらったのだと忙しなく近況を話すと、あっというまに去って行った。
走って廊下に消える二人を見送ると、いつもより部屋が静かになった気がした。

「黙り込んじゃって。どうしたユアン?」
「…いや、あいつにも大事な相手が出来たんだなって思って。嬉しいよ」
「それだけでもなさそうな顏だけど」

そんなにわかりやすく出てしまっていたのだろうか。
いや、曲りなりにも刑事だった自分の表情を読める人間はそういない。
この男の洞察力が尋常ではないのだ。

「…そりゃあ、な。子供のころケンカ別れして、ようやく再会したと思ったらやっぱりケンカして、気がついたらこうだぞ?複雑で当然だろ」

ただ誤解されたくないことがある。

「それでも全てを一人で背負おうとしていたアラゴが、甘えられる相手ができたというのは喜ばしい」

この気持ちは本当なんだ。

「お前も少しは他人に甘えたら?」
「…そういうの下手なんだよオレは」
「素直に言えるじゃねーの」
「アラゴがいないからだよ」

それにオズに対しては隠しても無駄な気がする。
どうせバレるなら自分から言ってしまった方がばつの悪い思いをしなくて済む。

「オレとしちゃ、あいつらやっとくっついたかって感じだけどな」

不思議な笑い方だと思ったこの表情は、笑顔ではないともう分かっている。
寂しかったり、辛かったり、そういうものを抑えているときの上面。
もしかしてこいつもアラゴを好きだったのだろうか。

「オズはそれで良かったのか?」
「は?良いも悪いもないだろ。いや、”良い”しかねぇよ」

心外だと言わんばかりの態度に少しイラついた。
例えそういう対象でないにしても、オズがアラゴを特別な存在と思ってることは明白だというのに。
何も感じないわけがない。
なのに平然と笑うオズが何を考えているか分からなくて悔しい。

「ほーら!凹むなってお兄ちゃん!何か楽しい事考えてろ。退院したらなにするか、とかさ」

明らかに誤魔化されたのはわかっていたけど、これ以上踏み込んではいけない気がしてオズの誘導に従った。

「退院したら?今は先延ばしにできている山積みの問題を片付けないといけなくなるわけだ。…頭が痛いな。手続きの膨大さを思うとずっと入院していたいくらいだ」

だけど失くしたはずの生を、文字通り命を懸けて取り戻してもらったのだから贅沢は言えない。
まずは人並みの体力をつけて、それから早く街の復興も手伝わないと。
そこまで考えてふと気付く。
退院したらこの男とも縁が切れてしまうのだろうか。

「オズは?」
「オレ?」

いきなり話を振られて、驚いたようにオズの目が瞬くいた。

「オズはオレが退院したら少しは時間ができるんだろ?何かやりたいことはないのか?」
「オレは――」

口を開いたまま言葉がとまり、オレの存在など忘れてしまったかのようにどこか遠くを見ているような顏になる。

「墓参りを――」
「墓参り?」

予想外の内容に思わず聞き返すと、オズはひどく狼狽え手のひらで口を隠した。
答えが音として外に出ていたことが不思議でならないという感じだ。

「オズ?」