side O

翌朝、ユアンに外出許可がでた。
ユアンが変な目でオレを見ていたが全くもって濡れ衣、昨晩のことは関係なく予定通りのスケジュールだ。 まあ色々とタイミングが悪かったのは認めるが。冗談にしろ元気になったとか言わなきゃよかったか。

「介護を兼ねた見張りが一人付くけどな」
「誰?」
「オレ」

ここまではお互い予想通りの会話。
顔を見合わせるとどちらからともなく笑いがこぼれた。
ユアンが先に口を開く。

「つれて行ってくれるか?」

目的地を言葉にする必要はなかった。

「ついてきてくれるなら」

さすがにヘリは飛ばせないから、今回の移動手段は車だけになった。
いつも乗っていた武器庫を兼ねたワゴンではなく普通の小さな車で山道を走る。
途中から道が狭くなり車を降りた。
人の手の入っていない森だが、女王陛下が聖守護隊の眠る地として与えてくださった場所なのだから危険はない。
アラゴと来たときはオーガーが出てきたりもしたが、本来は落ち着いた静かな場所だ。
体力の落ちているユアンに合わせてゆっくり進み、鬱蒼とした木々の間を抜けると視界が一気に広がる。

やっと、会いに来れた。

もう増えることのない墓標。
その一番新しい十字架の前まで手を引き、ユアンに向き直る。

「こんなに穏やかな気持ちでここに立てる日が来るとは思わなかった」

正当な評価を得られない仕事だとアラゴに言ったことがある。
女王陛下は闇の生き物が夢物語の中から出てくることを願っていない。
だから闇の生き物を駆逐するオレ達も夢物語の中にいなければならない。

「なんでオレだけ生き残っちまったんだろうっていつも考えてた。なんでみんながオレを生き残らせたのか。 生き残っちまった以上、一人でも先に進むしかなくて」

悲しむことを許されるのは仲間だけ。
だけどその一緒に悲しむ相手もどんどんいなくなっていった。

「でもやっぱり一人はしんどかったなぁ。先に逝った皆の事をうらめしく思った時もあった」

わからないだろうな。
あの言葉がオレにとってどんな意味を持つのか。
どれだけオレがあの言葉を求めていたのか。
護った相手に存在を認められ、行いを喜ばれるという僥倖。

「今は生きてて良かったと心の底から思える。オレを残してくれた皆に感謝できる」

女王陛下の盾となり剣となり国と臣民を護る。
聖守護隊が、オレ達が繋げてきた全ての任務の最後にこいつがいた。



「お前のおかげだよ。ありがとうユアン」