01.(2)





公園でベンチに座ってぼんやり空を眺める。
天気は晴れ。
風が吹いて気持ちいい。
でも遊んでいる子供はいない。
近所で凄惨な事件があったばかりだからなーと他人事のように思う。

「ユアン!アラゴ!」
「あ?オズじゃねーか。何でいるんだよ」

手を振って呼びとめた今日の護衛対象は、どうやらひどく荒れているようだった。







俺は座ったまま左右を軽く叩いてこっちに来るよう示す。
二人は並んで座りたそう顔を見合わせていたけど、俺に譲る気がないことを悟ったのか大人しく従った。
俺の隣に座って苛立たしげにガスガスと地面をけり上げるアラゴ。
やっぱり俺の隣に座って右手の固定具を左手で握りしめているユアン。
二人とも妙にきちんとしたお揃いの服を着ていた。

「何かあったのか?」
「ケーサツの取り調べ!あいつら信じる気もないくせに何回も同じこと聞きやがって…!」

予想通りの答えが胸に刺さる。
建前として問いかけてみたものの、何があったのかなんてだいたい知ってた。
あの人が今日は警察署に行くって言ってたから。
だからここで待っていた。
そうやって傷ついて帰ってくると思ったから。
ひと際大きく足元を蹴りつけたのを最後にアラゴが動きを止める。

「ケーカンなんて何にも知らないくせに…!」

知らないだろうな。
その取り調べをした警官の中にこの上なく真剣にお前らの話に耳を傾けていた人間がいたこと。
震える声でユアンがアラゴに続けた。

「何度も俺言ったのに…!誰も信じてくれない…!」

公的にアイツらの存在を認めてしまえば国中が混乱する。
だから市警は何があってもアイツらの存在を認められない。
そしてそのかわりに俺たちがいる。
『パッチマンなんておとぎばなし』
そう笑える世界を守るために俺たちがいるんだ。
だけど悔し涙を必死に堪えている二人の姿に叶わない衝動が胸の底に生まれる。
なぁ、ハント家の双子。
お前らに俺たちの正体を教えられればいいんだけどな。
間違いなくパッチマンはいる。
お前らの両親はパッチマンに殺された被害者で、だからカタキは俺たちがとってやる。
そう言えたらどんなにいいか。

でも言えない。

だって俺は、この二人にいつか心も体も傷が癒されて『パッチマンなんておとぎばなし』と笑えるような、そんな可能性を残したままの世界を守りたいと思ってしまった。

「何があったんだ?」
「どうせオズも俺たちを嘘吐き扱いするんだろ!言わねぇよ!」

アラゴの叫びに反射的に体が動いた。
市警の警官が信じちゃいけない話でも、近所のガキでしかない俺が信じる分には何の不都合もない。
俺が来てよかった。二人に伝えないと。

「俺は、まだお前らに会ってから全然、まだ何日かしか経ってないけど、それでもお前らが嘘でそんな顔できるような奴だとは思ってねぇよ」

お前らは嘘吐きじゃない。
だけどソレは俺が持っていくからお前らは忘れて幸せになってくれ。
うつむく二人の頭に片方ずつ手を乗せ、同じ間隔で優しく叩く。

「……顏、見えてねぇくせに」
「見なくても分かるって」
「……嘘吐いてるでしょ」
「嘘じゃねぇよ。無理して話さなくてもいい。でも俺はお前らが何言っても信じるからさ。信じてほしくなったら俺に言いに来いな」


下を向いたまま二人が頷いたのを感じ、俺は両手を動かし続けた。
俺にしか出来ないことがここにあった。
聖守護隊の意味。
それを本当に理解したこの時のことを、俺はこの先ずっと忘れない。