02



探して、見つからなくて、諦めた。

去り際にこっそりと打ち明けられたあいつの正体。
闇の化物から人々を護っている陰の英雄。
その存在は『つぎはぎパッチマン』と同じくらいお伽じみた話で、だからこそ現実だと疑わなかった。

『信じてほしくなったら言いに来い』

あいつがそう言ったのに。
有効なのは一回だけなんて聞いてねぇぞ。
家を出てからずっとパッチマンの影を追い、彼らの噂を探したけれど、結局何年たってもどちらも見つからなかった。
いつしか一人でいることが当たり前になった頃、ユアンに見つかってパッチマンを見つけて一度全てを失った。
半身と仇に与えられた命と体で生きるうちに少し知り合いが増えた。
敵がでてきて味方ができた。
それでもあいつとの道が交わることはなかった。
なのに。

いとも簡単に赤騎士を追い詰めて、ガスマスクを外した顏。
十年以上も昔の事だから、はっきりと覚えている特徴は髪の色くらいしかない。
見知らぬ街で似た色が視界を過ぎるたびに反射的に追いかけ、全て人違いに終わった。
忘れられない、あの優しくて暖かい色。

この色だ。

信じられない気持ちで男の戦いを追いかける。
崩れ落ちる天井に紛れてそのまま赤騎士に近づけばいいのに、男は高らかに祝福を唱えた。
知っている。その言葉は本来ならとあるメロディーに乗せられるべき言葉だ。
思い出した。そのメロディーはあいつがよく口遊んでいたメロディーだ。
本当にあいつなのか。

赤騎士が去り、男と共にがれきの山と化した屋敷から離れる。
聞くなら今しかない。
だけど、また違っていたら。
答えを聞くのが怖くて、記憶に残る名前を呼べない。
緊張を誤魔化すように魔剣の種の話を振ると不思議な表情で笑われた。
そうだ、哀しいときにこんな笑い方をする奴だった。

『オズウェル・ミラー』

少年が男に重なる。



「オズって呼んでくれ」