夏の話
「どうしたんだ?」
「どうしようかな、と思ってた」
掲示板の前でポスターを掲げたまま悩んでいるオズを見付けて声をかける。
顏の動きで示され視線を動かすと納得した。場所がない。
「夏祭り?」
無秩序に張られたプリントを左右に詰めればなんとかスペースが確保できそうだと思い、とりあえず手近なものから画鋲を外して、手の中で重ねていく。
「ああ、軽音のヤツらが宣伝させてくれって」
色鮮やかなポスターには黒の油性マジックで『オレたちの出番は19:00から!ステージに来てくれよな!C'est Cool!!』と書き足してあった。
「軽音…ルシアンたちか」
ライブに行くために授業をサボり過ぎて出席日数が足りなくなった、なんて嘘みたいな理由で同じ学年をやり直している彼はある意味校内でも有名な人物だ。
この間の行事でアラゴが妙に懐いたらしく悪い影響を受けないか心配している。
「そんな顔するなって。あいつの場合はツレがしっかりしてるし。ヒューがいれば変なことにはならねぇよ」
見るからに真面目そうな後輩の顔が浮かんだ。
ルシアンの暴走をギリギリで止めてくれるストッパー。
確かに彼がついている限り大丈夫だとは思うが、それよりもオズの言葉が意外だった。
「珍しいな。お前がそこまで言うなんて」
人当たりの良さに隠されているが、こいつの人を見る目は結構厳しい。
そのオズがここまで無条件に近い信頼を寄せているというのは本当に稀有なことだ。
「そうか?まぁ、ヒューとは結構気が合う方だし」
ますます驚き、不思議な気分になる。そんなオレの反応にオズが笑った。
「嫉妬?」
「まさか」
「心配すんなって。オレの相棒はお前だから」
「はいはい」
いつもの調子で軽く言われ、こちらも同じノリで返す。
嬉しそうに肘で突かれた。
「で、集合は何時にする?」
「ん?」
「コレ。一緒に行くだろ?」
ポスターをさした指をくるくる回しながらオズが当然のような顔で訊いてくる。
疑問形じゃなくて確認系なのがこいつらしい。
こっちの予定くらい確認しろと言ってやろうかとも思ったけど、結局出てきたのは苦笑だった。
「……行くよ。アラゴにも聞いてみないと」
「じゃあ悪魔くんにも声かけなきゃな。オレが言っても拒否られるだけだろうからアラゴ経由でよろしく」
「言っておく」
「特別に最高に眺めのいい場所教えてやる」
「それは楽しみだ」
最後の画鋲を止めバランスを確認する。
よし、オーケー。オズも満足そうに頷いた。
「さて、生徒会室に戻って片付けするぞ」
「えー…もう暑いから早く帰ろうぜ」
「そうだな。早く帰るために早く片付けようか」
「……はぁい」
オズは諦めたように両手を上げ、頭の後ろで組んで歩き出す。
夏祭り一週間前のいつものやりとり。
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