セスアラ



休日の朝。
もう少しこのまま寝るかそれとも起きるか。
目を瞑ったままベッドの中で悩む。
とりあえずあと五分と寝返りを打とうとして違和感に気付いた。
両手が動かない。
おかしいと思いながら瞼を上げると原因だけはすぐに理解できた。

「……てめぇか」
「おはようございます刑事さん」
「朝っぱらから何の用だ。あーいや、何でもいい。出てけ」

急ぎの用事ならオレが起きるまで待ってたりしないだろう。
悪趣味にも人の寝顔眺めてる余裕があるならオレが二度寝するくらいの時間はあるはずだ。
顎でドアの方を示すとセスがにっこりと口を開いた

「『地下鉄』」

たった一言で、でかい借りを作っちまった事件を思いださせてくる。
強く出れなくなったオレに、セスは満足そうに頷いた。

「利子の取り立てに伺いました」
「……そこの机の上のもん以外なら好きなの持って行け」

どうせ大したものは置いてない。
渋々返事をすると、セスは周りを見ることもなく今度は首を横に振った。

「ちょっと背徳的な事がしたくなりまして」
「はぁ?」
「刑事さんは大人しくしてくれてるだけで構いません。痛い思いはさせませんから」

靴を脱いだセスがオレの腹の上に乗ってくる。
見えないはずなのに、後ろに手を伸ばすと器用にオレのズボンが引き摺り下ろした。

「ヤケドするのは嫌なので薄手のゴム手袋を用意しました」

準備がいいでしょう?と笑いかけられたところで返す言葉もない。

「これならココもココもたっぷり触ってあげられます」
「――んっ」

寝起きというせいで既にゆるく立ち上がっていたそこを下着越しに握られる。
ずりぃ。
セスのクセに何でそんな優しい手つきで触ってくるんだ。
こんな風にされたら逆らえなくなる。
セスが体を倒し、唇が触れるギリギリ手前で止まった。

「さぁ。生産性なんて全く無い退廃的な行為を始めましょうか」

囁かれた言葉に頷かない事が精一杯の抵抗だった。



* * *



「……刑事さん?寝ちゃったんですか?」

起きてる。
お前に言いたいことがいっぱいあるんだ。
寝るわけにはいかないだろ。
口を動かそうとするが眠くて上手くいかない。

「ん……」
「しょうがないですね。これも貸しにしておきますから、後でちゃんと返してくださいよ」

額に柔らかい感触と温もりを感じた。
すげぇ切なそうな声で名前を呼ばれた気がする。
けど、確かめる前に意識が途切れてしまい、次に目を覚ました時にはセスの姿はもうなかった。

「勝手なヤツめ」

太陽の位置を確認するとまだ昼を少し過ぎたくらいのようだ。
確かセスは今日も午後からボランティアのはず。
軽食堂に向う準備をするため、オレはベットから勢いよく体を起こした。