「偽悪者の小唄」サンプル
ズキズキと頭に響く鈍い痛みに目を覚ます。
最初に目に入ってきたのは打ちっぱなしのコンクリートの天井。
壁には窓が一つも無い。どこかの地下だろうか。
似合わないスーツを着た男達が、上品とは程遠い笑いを浮かべてにやにやと僕を見下ろしている。
「気が付いたかい?」
肩の違和感で、両手を上げた体勢をとらされていると気付く。
腕を自分の方に寄せようとしてみるが、すぐに何かに引っ掛かって止まった。
冷たくて固いモノが手首に当たり、左右に動かすとガチャガチャと鳴る。
肌が擦れる痛み。ここからは見えないが、手錠でも付けられているのだろう。
監禁の目的はおそらくオルク。
パッチマンが消滅し、聖守護隊ともある種の膠着状態に落ち着いていたから油断した。
「突然乱暴な真似をして申し訳ないね。邪魔が入らないように君と話をしたかったんだ」
「……用件は?」
「率直に言おう。我々は君が持っているオルクの契約が欲しい」
予想通り。今まで飽きるくらい聞いてきたセリフ。
その度に僕も同じ言葉を返す。
「欲しいなら奪えばいいでしょう?」
僕の心臓ごと取り出せばいい。それで終わりだ。
答えを聞いた男が笑みを深くする。
「そこが難しいところだ。単に無理やり奪おうとしたところで、オルクは契約の一環として君を守ろうとするだろう?」
「さぁ?」
「例え力押しが通用したとして、万が一にでも君を殺してしまったら、オルクは契約を完了したものとして消えてしまうかもしれない」
こんな奴らの手にオルクが渡るくらいなら消えてしまったほうがマシだ。
「私たちは君からの正式な譲渡を望んでいるんだよ。偽りの実の種は失っているようだが、アレはあくまでオルクの力の一部」
そうだろう?と男が確信をもった顏を僕に向ける。そこまで調べているのか。
「他にもオルクの利用方法はある。まぁ、ここで君に使われては困るので対策はさせてもらったがね」
返事が無いのを肯定と受け取ったのか、男は一人で喋り続ける。
「分かりやすく結界とでも言おうか。偽りの実の種が無い状態なら、この程度でも効くだろう?」
オルクの存在がとても弱くにしか感じられないのはそのせいか。
不愉快極まりない。
「暴力はあまり好みじゃない。世の中には平和的でもっと良い方法がたくさんある」
男が片膝を曲げて床につく。ドアが開き薄暗い部屋の中に明かりが射した。
眩しさに思わず目を細める。
何人かのスーツの男に囲まれて、ひとりの人影が入ってきた。
こちらに近づくにつれて逆光で見えなかった輪郭がハッキリしていく。
「刑事さん…?」
「君が随分とこの男に執心していたようだから、協力してもらおうと思ってね。早めの決断を勧めるよ」
ふらふらとおぼつかない足取りで刑事さんが僕に近づいてくる。
暗示でも掛けられているのか、焦点の合わない目。
ぼろぼろになっていたシャツを乱暴に取り払われる。
腕を掴む力だけは妙に強かった。
――まさか。
男が言っていた『別の方法』の意味に思い至る。
「刑事さん!やめてくださいっ!刑事さんっ!!」
ベルトが抜き取られ、脱がされたズボンが無造作に床へ投げ捨てられる。
「お願いです!刑事さん!」
振り上げた足を掴まれ、そのまま両膝を大きく割り開かれた。
どれだけ叫んだところで何の抵抗にもならない
刑事さんが押さえこむように僕に身体を重ねた。
隙間なんてくらい、ぴたりと肌が合わさる。
本来、何かを受け入れるようにはできていない場所に乾いた指が捻じ込まれる。
痛みの後に例えようの無い違和感。
「っ!刑事さん、や、めて――!」
入り口を確かめるように二本の指で穴を拡げられ、刑事さんのモノが押し当てられた。
わかってる。この人の本意ではない。
ああ、でも。
諦める寸前で思ってしまった。
涙が頬を伝う。
――嫌だなぁ。
「うあぁあああああああああぁっ!」
全身を二つに引き裂かれたかと思うくらいの痛みが襲った。
慣らすなんて行為はほとんど無いまま、無理やり身体を開かれていく。
息を吐く間もなく、刑事さんの腰が動き出した。
流れた血が肌を伝っていく。気持ち悪くて泣きそうだ。
いや、もう泣いているんだった。
だらだらと流れる涙を他人事のように感じながら、ただ行為が過ぎ去るのを待つ。
「うっ、あ、ああっ!」
突かれる度に跳ね上がる身体。
口から洩れる声を抑えられない。
痛みと熱。
それでも刑事さんのモノが場所を掠る度に、微かにだが苦痛以外の感覚も生まれる。
意志の力だけで我慢できるものではない
逃げようとしても押さえつけられる。
両手を繋がれているせいで顔を隠すこともできない。
徐々に刑事さんの動きが早くなる。
ああ、イくのかな。
ひと際強く突かれ、躊躇うことなく身体の中に熱い液体が放たれた。
「――あ、ぁあ…」
じわりと奥まで熱が拡がっていく。
初めての感覚に震えが走る。
それでもやっと終わったと安堵の息を吐いた途端、再び刑事さんが動き出した。
「待っ、やぁっ!あぁっ…!」
出したばかりのはずなのに刑事さんのモノは萎えることなく、変わらない激しさで腰を打ちつけられる。
一度も抜かれないまま、数えるのも嫌になるくらいに精液を注がれた後、ようやく刑事さんの体が離れた。
ぱっくりと開いた穴から、注がれた液体が溢れ出す。
排泄にも似た感覚がぞくりと背筋を這い上がった。
気まぐれのように与えられた僅かな時間に、少しでも呼吸を整えようと息を大きく吸うと、刑事さんが再び僕の方に体を倒した。
まだ続くのか。
「刑事さん…お願い、です…も、これ以上は…」
無駄とは知りつつ、縋るような気持ちで口にする。
刑事さんが僕の耳元に顔を寄せる。
ここに捕らえられてから初めて刑事さんの声を聴いた。
「――セス、力抜け」
囁かれた内容に思わず刑事さんの方を見る。
刑事さん自身の身体を隠れ蓑にして合わされた目は、間違いなく正気のものだった。
「けい、じさ…?」
「オルクの力を返す。動けるようになったらあいつらを吹き飛ばせ」
どうやって?
疑問に思う間も無く刑事さんから唇が合わせられ、偽りの実の種が僕に戻るのがわかった。
「できるか?」
僕が頷くと、怒りを押し殺した低い声で付け足された。
「殺すなよ。後で死ぬより酷い目にあわせてやる」
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