気に入らないはずなのに不意打ちでどきっとさせられた刑事さん(アラセス)



セスから軽食堂でメモを渡され呼び出しをくらう。
指定場所は人気のない建物の陰。
行ってみると時間には少し早いが、エプロンをつけたままのセスが既にオレを待っていた。

「ご足労頂いてありがとうございます」
「何の用だ」
「そんな顏しないでください。睨んでも何も出ませんよ」
「どうだか。いつかお前の尻尾を掴んでやるからな」
「だそうですオルク。刑事さんがこんなこと言ってますけど、どうしますか?」

挨拶代りの牽制を、セスは何もないはずの空中に向って流した。
十年来の友人相手のような気安さ。
つられて視線を上げる。

「そこにいるのか!?」
「いませんよ」

笑顔のままで事も無げに返される。
こいつ…!
殴りかかりそうになる衝動を拳を握りこんで抑えだ。
悪魔とセスが同じにしろ別物にしろ、セス自身もかなりの性格だってのはとっくに分かってたことだ。

「オルクは僕だと言ったでしょう。僕がオルクでオルクが僕です」
「イミわっかんねぇ」

頭をがしがしと掻いて溜息を吐く。
確かに言ってた。
けど、セスのことだからそれも嘘かもしれないじゃねぇか。
最初に会ったときからあいつは大嘘吐きだった。

「分からなければ結構ですよ。そんなことより」

じゃりと石を踏む音がした。
セスが一歩近づいてくる。

「ねぇ刑事さん。僕の事を好きになってください」
「はぁ?」

何が『そんなことより』なんだ。
話の繋がりが全然わかんねぇ。

「僕なりに考えたんです」

ブリューナクを確実に手に入れる方法を、ともう一歩。
頬に手がのばされた。
触れないようにぎりぎりの隙間は開いているが、体温が伝わってくるほどに近い。

「身を削って、心を尽くし、命を捧げることすら厭わないくらいに僕に惚れてください。絶望しそうなときは僕の事を思い出して奮い立ち、幸せな時は僕を思い出して物足りなさを感じ、死にかけたときは僕の事を思い出して奇跡の生還を果たしてください。自分の命と僕の望みを天秤にかけられるくらいに等価に近づけて、常に僕の側にいたいと思ってください。僕がブリューナクを手に入れるまで。そうすれば僕がブリューナクを手に入れられる可能性は跳ね上がる。そうしてくれたら、僕は刑事さんが死ぬまで同じものを返してあげます。ね?どうですか?人はそれを愛というのでしょう?」

優しく笑いかけてくるセス。

「だったら刑事さん、僕を愛してください」

言葉に詰まる。
なんでこいつはこんなこと言いだしたんだ。
言葉は理解できた。
気持ちが理解できねぇ。
少しでも何か読み取れないかと思って目の前のセスをじっと見つめる。
返事が無いことに痺れを切らしたのかセスは不意に体を引いた。

「……なんて。さっき婦警さんに教えてもらったんですよ。お願いをきいてもらう一番の方法は相手を惚れさせることだって」

拍子抜けするくらいに呆気なくいつもの飄々とした顔に戻る。

「相手が同性だとは思ってなかったみたいですけどね」

苦笑しながら付け加え、ただの冗談だとオレの横をすり抜けて去っていく後姿を黙って見送る。
引き留める理由なんてないのに、もやもやとした何かが残る。

「バカじゃねぇの」

例えじゃなく目に見えて分かるんだ。
あれだけは嘘でも冗談でもなかった。

――『僕を愛してください』

思いつかなかった返事。
正体のわからないこの感情。
答えを知るのが先か、それともその前に忘れてしまえるだろうか。