ラーメン(学パロ)
「オズ!早くいくぞ!急がないと並んじまう!」
「待てって。今ユアンにメールを...送信っと。待たせたな。」
授業が終わった途端にアラゴが席を立った。
早々と廊下に出て行った後姿を追いかけ教室を出る。
靴箱くらいで追いつけばいいかと思いきやアラゴはドアのすぐ前で足を止めていた。
原因は最近ちょくちょく周りに現れる黒髪の後輩。
俺に気付くと一睨みし、すぐに視線をアラゴに戻した。
「帰り道をご一緒できたらと思ったんですが…」
「えっ」
「今日はご予定があるみたいですね。明日お誘いさせてください。」
バカ。
予想外で驚いたのは分かるがその返しはないだろ。
残念そう踵を返すセスの腕をアラゴが掴み引き留めた。
よし、よくやった。
「待てって!」
「オズ、なあ今日セスも一緒でいいだろ?」
「ん?悪魔くんがいいならオレは別に構わねぇぜ」
確認に肯定を返すと、アラゴが安心したように笑った。
そんな必死な表情で言われてオーケーしない訳ないだろ。
「じゃあ決まりだな!」
「あの、アラゴさん?どちらに?」
少し不安気に尋ねるセス。
なんだ言ってなかったのか。
そもそもアラゴの奴、セスには一緒に来るか訊かなくて良かったのか?
まあセスならアラゴが誘えばどこにでも来そうだけど。
アラゴが嬉しそうに行き先を告げた。
「ラーメン食いに!」
カウンター席に横並びに三人。
食券を買って注文を済ませると、程なく頼んだ品が出てきた。
置かれた器からは白い湯気が立ち昇っている。
いただきますと手を合わせ、一口。
アラゴが満足そうに溜息を吐く。
「うめぇ。たまに無性に食いたくなるんだよな」
「だよなー。久しぶりで美味い」
久しぶりの味を堪能しているとアラゴが隣を見て短く声をあげた。
つられて視線をやるとアラゴを挟んで反対側に座っていたセスはいまだに箸すら持っていない。
忌々しそうに目の前の器を睨んでいる。
あー…これはもしかして。
「セス!お前まだ食ってないのか?冷めるし伸びるぞ!」
「はぁ…ですが」
「このタマゴとかすげー美味いから!」
アラゴがセスのラーメンから卵を取り口元に運んでやった。
こいつ事ある毎にセスの世話を焼かないと気が済まなくなってきてるんじゃねぇの。
セスは先程とは違う意味で眉を寄せた顏になり正面を見つめる。
悩んでる悩んでる。
――齧った。
「…美味しいです」
「な!ホラ!麺も!」
喜ぶアラゴに促されてセスは渋々と箸を手に取った。
一口分を取り分け息を吹きかけて冷まし始める。
見守るアラゴ。
冷ますセス。
自分の分を食いながら横目で様子を伺ってみるとまだ冷ましている。
見かねたアラゴが恐る恐る尋ねた。
「セス、お前もしかして熱いの苦手…?」
「得意ではありませんね」
「意外だな!悪魔くんが猫舌!」
似合うんだか似合わないんだか。
アラゴの背中を叩くいて同意を求めると更に向こうから予想通りの反応が返ってきた。
「そう言うあなたは見たままですね。ところでユアンさんには愛想を尽かされたんですか」
「んな訳ないだろ。あいつはちょっと用事があるの」
言った途端にさっき送ったメールの返信が来た。
凄いタイミングだな。
断わりを入れてケータイを操作するオレをセスが睨む。
ピリピリと苛立ったセスの態度を気にするでもなくアラゴは話を続けた。
「……無理に誘って悪かったな。食べきれなかったらオレが食べてやるから」
「いえ、お構いなく。時間がかかるだけで量的には全く問題ありません」
「そうか?ならいいけど…」
「ああ、アラゴさんがさっきみたいに食べさせてくれるなら熱いのも我慢できるかも」
「な!」
「ごちそうさま」
アラゴが顔を真っ赤にして黙らされたところで、ちょうど器が空になった。
両手を合わせて完食の宣言をする。
椅子から立ち上がり鞄を持つとアラゴから抗議の声を向けられた。
「え!?もうかよ!」
「お前らが遅いだけだろ。じゃあオレ行くから後は二人でごゆっくり」
「何だよそれ」
「それくらいの気は効かせられるんですね」
「この後遊ぶって言ってたのは?」
「ワリ、ユアンが困ってるっぽいから行ってくるわ」
ケータイを見せるとアラゴが拗ねたように口を尖らせる。
言いたいことは分かる。
何を考えてるか顏に出過ぎなんだよ。
「オレを呼べよ」
「それは無ぇ。さっきオレが悪魔くんも来てるって送っといたから」
わざわざデートの邪魔するような奴じゃないだろとアラゴ自身も分かってることを敢えて言う。
けれどこれは逆効果だったらしい。
オレの説明にアラゴは余計に態度をこじらせてしまった。
「あーもう!だからユアンがオズばっかり頼るようになるんじゃねぇか!」
驚いた。こいつ実は鋭いよな。
隠していた本音を思いがけず言い当てられ口の端が上がるのを抑えられない。
『そうだよ』
返事代わりアラゴの頭を軽く叩いてじゃあなと店をでる。
外から二人で並んでいる後ろ姿が見えた。
仲が良くてなによりだ。
視線を感じたのかこちらを振り返ったセスに手を振り、オレはユアンのもとに急いだ。
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