School Festival! サンプル



薄暗い廊下を足音を立てないように気をつけて、アラゴの部屋に向う。
返事が無いのは分かってるからドアを開けるのにノックはしない。
オレの部屋と同じ位置にあるスイッチを手探りで押し、明かりをつけた。
ベッドの横に膝をついて呼びかける。

「おはよう、アラゴ」
「……ん」

アラゴが眩しそうに手のひらで顔を隠そうとする。
不機嫌そうに眉を寄せているのが、まるで小さな子どもみたいだ。

「アラゴ起きろ。時間だぞ」
「……まだ……」

もぞもぞと毛布に潜り込もうとするアラゴ。
毛布の端を掴んでそれを止め、小さく肩を揺する。
気持ちとしてはこのまま寝かせてやりたいけれど、今日はそうもいかない。
あまり時間を掛けてる余裕は無いんだ。
早々に最後の手段を使うことにした。

「セス君と約束してるんだろ?」
「……せす…」
「そう、セス君」

もう一度、彼の名前を出す。
アラゴは何度かゆっくり瞬きをすると、がばりとベッドから飛び起きた。

「セス…そうだ!……あぶね、ユアンありがとう」

時計を確認してから安心したように息を吐く。
針が指しているのは丁度頼まれた時間ぴったりだった。
もう少し手間取るかと思っていたけど、案外すんなりと起きてくれた。
こんなに効果があるなら毎日この方法を使いたいものだ。

「じゃあオレはもう出るから」
「生徒会も大変だよなぁ」

あくびをしながらアラゴが両手を上げて大きく伸びをする。
数十分前に起きた時のオレと同じ行動。
やっぱり双子なんだなと実感して面白くなる。

「その分やりがいもあるさ」
「どーだか。ま、いいや。オズによろしく」
「伝えとく。二度寝するなよ」
「分かってるって」

まだ眠そうに目をこする横から寝癖を整えてやる。
最後にアラゴが体に巻き付けている毛布をはがして部屋を出た。
これで完全に目を覚ますだろう。
後ろから寒い!と文句が聞こえてくる。
あーあ、母さんたちに怒られても知らないぞ。
声を殺して笑いながら玄関のドアを開けた。

「わ……」

外に出た途端、正面から風を感じる。
冷たい空気が気持ちいい。
太陽が昇るまであと数十分。
普段ならオレもアラゴもまだ寝ている時間だ。
空を見上げると少し雲がかかっていたが、この分だともうすぐきれいに晴れるだろう。
オズに教わった天気の読み方はそれなりに当たるようになってきた。
今日も当たるといいな
会ったら答え合わせしてもらおうと考えながらしばらく歩くと、何故か途中にオズが立っていた。
家は全く違う方向だから行き道に待ってたなんてことは有り得ない。
何か悪いことでも起こったのかと心配になったが、表情からするとそうでもないようだ。
オレに気付いたオズがひらひらと手を振る。
こちらからも同じように返して早めた歩調を元に戻した。

「どうしたんだ?」
「せっかく早起きしたから、ユアンでも迎えに行こうかなって思って。朝イチで会えて嬉しいぜ」

あまりにシンプルな理由で思わず笑いがこぼれた。
本当に臆面もなくこういうことを言ってくるやつだな。

「ははっ。持て余してる時間なら先に準備を始めててくれ」
「そう言うなって。おはようユアン」

にっこりと微笑まれて、まだ挨拶すらしていないことに気付いた。
照れ隠しに否定することすら許さないなんて、ずるい話題転換だな。
まあいい。
調子に乗るから言わないけれど、オレだって朝一番にオズに会えて嬉しい。

「おはようオズ。良い一日になるといいな」
「ああ。良い一日にしようぜ」

どちらからともなく横に並んで歩き出す。
特別な一日の始まりだった。