初夏。具体的には5月3日。
和平のための協力者探しに一刻も惜しいというこの状況で何故か僕たちはバンパイアマウンテンに戻ってきていた。
大事なイベントがあるというカーダの言葉によって押し切られたものだったけど結局まだ僕は理由を聞けないままでいた。
「ねぇ、まだ教えてくれないの?」
「うーん、でもなぁ」
総会の時以外にはそこまで人数がいるわけではない。
けれど今日はなぜか妙に人の気配が多い気がする
カーダにつられて廊下をあるくと、顔なじみになった二人がそろっていた。
「あら、カーダ。今年も来たのね」
「外せるわけないだろう」
「確かに!」
意味深にほほ笑むエラと爆笑するガブナー。なんだろう。
「おい!今年の会場はこっちだ!」
「バネズ!」
手をで示された方に歩いていくとやたら派手に装飾された部屋が僕らを迎えた。
赤を基調とした誰かを彷彿とさせる飾り付けだ。
「主賓は今年は来てるのか?」
「当然来てないわ。相変わらず逃げ回ってるようだ」
「ははっ!」
主賓がいないという割には、上座にシーバが楽しそうに座っている。
いわゆるお誕生日席ってやつだ。
僕とカーダが椅子に座るとガブナーが手を叩いて注目を集めた。
「よし、参加予定者はこれで全員そろったな」
「ま、あとは追い追い来るだろう」
部屋にいるのは僕の知ってる顔ばかり。
「ねぇ、カーダ、結局なんなの?」
「おう新入り!俺が説明してやろう」
にやにやしてるガブナーが妙に怖い
「お前はまだ会ったことないだろうが元バンパイア将軍に”ラーテン・クレプスリー”って奴がいてな」
予想外の名前に僕の胸が跳ね上がる
「あいつがバンパイアになった記念すべき日なんだよ!はっはっ!その理由ってのがまた面白くてな!」
「あの人、失恋してバンパイアになったのよ」
「エラ!」
一瞬、僕の耳か頭がおかしくなったのかと思った。
俺が言おうと思ったのにとがブナーが悔しがってるがそれどころじゃない。
「それ本当なの!?」
「おう!本当だ!」
あの偏屈で不器用なクレプスリーが!
「あははははははは!」
笑い過ぎて涙が出てきた。
心配したカーダが僕の背中を撫でに来るくらいには笑い転げた。
「ダ、いや、だ、大丈夫か?」
「うん。ぷっ。大丈夫…!」
あまりに動揺してうっかり素手僕の名前を呼びそうになったみたいだったけどうまく誤魔化してくれた。ありがたい。
「そうよねぇ。そりゃそんな理由でバンパイアになるなんて笑っちゃうわよねぇ。」
「まあ、一応当時は他にも大層な事をぐだぐだ抜かしておったがな。一言で言えば、そういうことだ」
エラとシーバの会話だ。
思わず爆笑してしまったけど、こうやってみんなで笑いものにされるのはちょっと気の毒かもしれない。
かといって弁護できる立場でもないけど。
ちょっと居心地が悪い思いを味わってるとそれに気づいたエラが僕に向かって拗ねたように言う。
「だって彼、最近は総会にも来ないんだもの。一年に一回くらいは思い出してあげないと可哀そうじゃない」
そう言ってほほ笑んだエラの目はとても優しげだった。
周りを見てみるとみんな同じ表情をしている。
なんだ。
僕はまた可笑しな気持ちになった。
そういうことか。
結局みんなクレプスリーのことが大好きなだけじゃないか。
ここにはいない彼の人を思って僕たちは盃を掲げる。
「Mr.ラーテン・クレプスリーの良き日に乾杯!」