ときどきパパは変なことを自慢しにくる。
それは僕が聞いてもよく意味の分からない事だったり、さっぱり意味のない事だったり、実はパパ自身意味を理解してない事だったり様々だ。
大抵は若いときに仲良しになったペンフレンドから仕入れた俄か知識なんだけど。

「チルドレンズデイ?もうパパには騙されないよ。今日、先生が言ってたもの。ユニバーサルチルドレンズデイは11月20日だって。」
「うちの坊やはよく勉強してるな、パパも鼻が高い!でもパパが言ってるのはダレンが思ってるものとちょっと違うかな」
「違うって?」
「ジャパンの友達が教えてくれてね、子供の健康を願ってハーブを入れた入浴剤を使ったりサムライの鎧を着たりするらしい」
「重そうだね」

という会話をしたのが昨日の夜。
僕にはパパが言ってることが本当かどうか判断できるよう材料は持ってないけど、なんとなく嘘なんじゃないかと思った。
パパは騙されやすいし。







「スティーブ!」

通学路に見慣れた後姿を見つけて声を掛ける。
スティーブはすぐに止まって振り返ると「よお、ダレン!」と返してくれた。

「おはようスティーブ!ねぇ聞いてよ!」
「何だよ、また親父さんが変なこと言い出したのか?」
「そうなんだ!パパってば今日がチルドレンズデイだなんて言うんだよ」
「んなわけないだろ。昨日先生が言ってたばかりじゃねーか」
「だよねー」

という会話をしたのが今日の朝。
学校についてから先生にも聞いてみたらやっぱり同じことを言われた。
さっそく昨日の復習をするなんて二人とも偉いぞって先生から褒められたのは予想外だったけどパパのおかげと思っておこう。







パパが帰ってきた音がして僕はソファーから立ち上がった。
テレビの続きも気になるけどそれよりパパに文句を言わなくちゃ。
コートを脱ぎながらママに鞄を渡すパパに横から飛びついてやった。

「ねぇパパー?先生にもスティーブにも聞いたんだけど、やっぱり今日はチルドレンズデイじゃないよ」
「はは。今日が『こどものひ』なのはジャパンだけらしいしな。他にも世界中にたくさん『こどものひ』があるんだよ。」
「じゃあ今日は僕には関係ないじゃない」
「好きな人の元気と幸せを願うなら機会は多い方がいいだろう?」
「……」

という話をしたのが今日の夜。つまり、さっき。
パパの言うことは何か違う気もするけど、その通りな気もする。
チルドレンズデイってそういうものだっけ?それとも僕が勘違いしていたのかな。







そして今、僕はご飯の時間だと告げるママの声を背に、スティーブの家まで走ってきていた。
たぶん後で怒られる。
あんまり怒られないといいなぁ。
いざとなったらパパのせいにしよう。

「どうしたんだよこんな時間に」

スティーブのママは快く僕を中に入れてくれたっていうのに肝心のスティーブ本人はベットに座ったまま胡散臭そうに僕を見ている。

「うん、スティーブに元気でねって言おうと思って」
「はぁ?」
「パパが今日は好きな人の元気と幸せを願う日だって言うから、わざわざ言いに来てやったんだよ」

言いながら、ふと、もしかして僕ちょっと恥ずかしいこと言っちゃたのかなという気持ちが湧き上がってきた。

「ありがたく思えー」

でもまぁ言っちゃったし来ちゃったししょうがないか。
びしっと僕に指差されたスティーブが一拍置いてクッションを投げつけてきた。
もちろん避けたけど。
そんなへろへろのボール、シャン様に当たるはずがないだろう!

「ばっ…かじゃねぇの!?お前こそ弱っちいクセに!サッカーのときだってホイホイ怪我してるじゃんか!」
「そういやそうだね。いつも仕返ししてくれてありがとう」
「それよりまず怪我するなよ!」

うわー、照れたスティーブなんて珍しいもの見れた。
それだけで来た甲斐があったかも。
まじまじと見てるとスティーブが僕を睨んできたのでそろそろ頃合いだと分かった。

「じゃあ僕帰るね。早く帰らないとママにご飯抜きにされちゃう」

別に怒らせに来たわけじゃないし、あんまり遅くなると本当に怒られちゃう。
チルドレンズデイのことを教えてくれたのはパパだからまずはパパから味方になってもらおう。
帰ってからの計画を立てながらスティーブの部屋のドアに手を掛けると、後ろからぐいっと引っ張られた。

「ちょっと待てよ!」
「ん?」

部屋の中には僕とスティーブしかいないから、もちろん引っ張った犯人はスティーブだった。
いつの間に拾ったのか、さっき投げたクッションで僕の頭をぼすぼす叩いてくる。

「お前も、元気でな」

ガラじゃないことをしてるスティーブが可笑しくてしょうがない。
たぶんコイツは今、自分にとっての精一杯で僕の元気と幸せを願ってくれてるんだろう。
嬉しくなって自然と声が弾む。

「うん!じゃあまた明日ね!」
「おう、気を付けて帰れよ!」


いつも通りのやり取りを交わして僕たちは別れる。

空には小熊座が輝いていた。