「ここにいたのかハーキャット」
「クレプスリー、どうかしたの?」

まさか道にでも迷った?とちゃかして聞けば、たわけと不機嫌そうに返された。
そんな言い方しなくたっていいじゃないか。

まるで昔からの知り合いのような。
まるで親しい友人のような。

あんたは変わらないな。
だから勘違いなんてしないけど期待してしまうじゃないか。

「で、どうしたの?」

けれどこのぐらいでいちいち落ち込んでなんていられない。
軽い調子でもう一度尋ねるとクレプスリーは苦々しいと顔に大きくかいて話しだした。

「いやな、スティーブが」
「スティーブがどうかしたの!?」

最後の試練で怪我をしたスティーブは現在、強制的に休養を取らされている。
それでも命に関わる怪我はなくて安静にしていれば問題ないって言ってたのに。

「いや、容態が変わったとかそのような話ではない。」

よかった。僕は胸を撫で下ろした。

「あれがな、ハーキャットが我輩の事を怖がっていると言うのだ。絶対に我輩に非があるから聞いて謝って来るまでおとなしく寝ないなどと言い出しおって。」

はぁとクレプスリーはため息を付いた。
ああ、ちょっと様子が目に浮かぶかもしれない。
言い出したら聞かないもんなアイツ。

「ハーキャット。スティーブに言われずとも我輩に対するお前の奇妙な態度は気付いていた。もし我輩に非があるのなら言ってくれないだろうか?」

何にもないよ。僕は普段と変わらないつもりだけど。スティーブもどうしてそんな変なこと言ったのかな?やっぱり最初に会ったときに怒鳴っちゃったこと気にしてるのかな?

「アンタが」

もう一回ちゃんと謝らなきゃ。クレプスリーも巻き込んで変な気遣いさせてごめんね。僕からスティーブに言っておくからほんとに気にしないで。

「僕を庇って死んだ父親に似てるから」

クレプスリーの目が驚きに小さく開かれる。
ちょっと待て!僕は一体何を言った!?
出来ることなら今すぐ無かったことにしたい。
有り得ない。
嘘みたいだ。
いっそ嘘ならよかったのに!

「なんてね、嘘だよ!びっくりした?」

さっきのは嘘だ。嘘になるんだ。と心の中で唱え続け必要以上に明るい声をだす。
嘘なんだからそんな顔をしないで。
引っかかったーと笑って見せてから、カーダとの約束を思い出した振りしてクレプスリーに別れを告げる。
歩き出した瞬間、後ろからふわりと赤に包まれた

「その男が我輩に似ているというなら、息子を守れたことを誇りに思って死んでいったに違いない」

温もりとぎこちない慰めが僕に染み込んで、僕は目のどこかが壊れたんじゃないかってくらいに、ただ涙が溢れてきた。

「知ってるよ…!あの人は誇り高くて、優しくて、僕のことを心から大事にしてくれた!本当に大好きだったんだ…!」
「そうか」
「悔しい!あの人を死なせてしまったのが悔しい!力が足りなかったのが悔しい!どうして僕は!」
「いいんだ」

言葉とともに込められた力が強くなる。
爆発しそうな感情をどう収めたらいいのか分からなくて、僕は目の前の腕にしがみついた。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!痛かったよね、ごめんなさい、苦しかったよね、ごめんなさい、僕の所為で、僕の所為で!」

謝ることしか出来ない僕にこの上なく優しい声が降ってきた。

「いいんだ、ハーキャット。パパは痛くない、苦しくない、だから幸せになりなさい」
「ごめんなさい…!」

それ以上はもう何も言葉にならなくてただひたすら泣き続けた。








泣きつかれて眠ってしまったらしい僕を部屋まで運んでくれたのはもちろんクレプスリーで、カーダからそれを聞いたときには僕は恥ずかしさでベットの上でのた打ち回った。
ともかく、かなり恥ずかしい思いをしたがこれで多少の違和感は見逃してもらえるだろうとポジティブシンキングし、(そのくらいのメリットがあったと思わないと耐え切れない!) スティーブの寝ている救護室にいくと、入った途端スッキリした顔になったなと言われた。
丁度そのタイミングでクレプスリーがやってきた所為で僕の脳の処理速度が追いつかなくなり、結局そのまま走って逃げた。
たぶん顔が真っ赤になっていた。




カーダの元帥叙任が行われる数日前の出来事だった。