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「スティーブなんて大っ嫌いだ!バカ!絶対に許さないからな!」

目の前で俺を罵る親友の隠しきれていない口元のゆるみに、そういえば今日は4月1日だったなと思う。

選択肢。
1、ノる。
2、ノらない。

嘘うそ。
答えは一つしかないに決まってる。
もちろん、遊ぶ。

「――そうか。俺、ダレンにに酷い事したんだな。全く心当たりがないけど自覚が無い時点で最低だ。 ごめん。謝っても許してくれないよな。当然だ。本当にごめん。 ダレンが俺を嫌いになっても俺はダレンが大好きだから。 友達じゃなくなってもダレンのこと好きでもいいか?いや、わりぃ図々しかったな。お前をそんなに傷つけたんだ。そんな資格あるわけない。 今のは忘れてくれ。でも、もし万が一にでも俺を許してくれるなら…いや、何でもない。俺自身が俺を許せそうにない。 ちょっとショックが大きいから今日は学校休むことにするわ。家に着いたら自分で電話するから。ダレンは何もしなくていいからな。 ここでさよならか。…寂しいな。まぁ、自業自得なんだから受け入れねぇとな。今まで本当にありがとう。楽しかった。ダレン、お前の幸せを祈ってるよ」

親友と思ってた相手に理不尽に大っ嫌いと言われて悲しい悲しい俺。ひたすら喋る。
たまに演出として間を持たせたりするが、口を挟ませるようなミスはしない。
だってー俺ー悲しいけど謝ることしかできないしー。

「ちょ、スティーブ…!?」

予想外であろう俺の反応にダレンが目を白黒させてる。
気付かないフリをしながら背を向け歩き出すと、慌てて追いかけてきた。
背中の服をつかまれそうになって少しだけ足を速める。

「ねぇスティーブ。今日、何日か分かってる?」
「日付?そんなのどうでもいいよ」
「今日は4月1日じゃないか」
「だからどうだっていうんだ。絶交記念日として覚えておけって?」
「ちが」
「まあ言われなくても一生忘れられないだろうけどな」
「そうじゃなくて」
「そうじゃないなら何だよ」
「エイプリルフール」
「わかってるよ。『エイプリフールの嘘だろ』なんて思ってねぇ。嘘だったらいいなって思うけど」
「ねぇ」
「お前が嘘で俺の事嫌いだなんて言うわけないから、だったら偶然たまたま今日だったってだけで、お前にヤな思いさせたことを疑ったりなんかしない。」
「ねぇ、分かってるんでしょ?」
「何が」
「何がって」
「何だよ」
「……」

返事がなくなり、そろそろかなと思ったところでダレンに左手を取られ足を止める。
俺の手を握ったままダレンが前に走り出た。

「――ああ、もうゴメン!嘘!エイプリルフールだから嘘つきました!ごめんなさい!」

深く下げられた頭の向こうの表情は見えない。
俺は何も答えずに掴まれた手を握り返し、そのまま歩き出した。
ダレンは黙ってついてくる。
歩いて歩いて。宣言通り家まで帰ってきた。
二人で俺の部屋に上がりドアを閉め、気分的には相当久しぶりな感じでダレンと顔をあわせた。
――あぁ、面白かった。

「さーてシャン君。俺の事が何だって?好き?大好き?」

振り返ってにやにや笑う俺に、ダレンはようやく事態が呑み込めた様子を見せる。
口をパクパクさせて俺を見つめるダレンにさらに畳み掛けた。

「嫌いって言われて、俺すっげー傷ついたんだけど。で、好き?嫌い?」

ん?と覗き込むと、さすがに分が悪い事は分かってるようで顔を真っ赤にしてヤケのように叫ばれた。

「はいはい好きだよ、大好き!」

残念。そんな言い方したら余計俺に付け込まれるのに。わかってねぇなぁ。

「しーんーじーらーれーなーいー」
「もーホントにゴメンってば!どうすればいいのさ!」
「態度で示して」
「えー…」
「ほらハグ」

不服そうな声を出しながらも強くは出れないんだろう。
両手を広げた俺に大人しくハグしてきた。
しょうがないなと苦笑されたので頭突きで返す。

「足りない」
「次はなに?」
「自分で考えろよ」

おずおずとダレンの手が俺の頭を撫でる。

「足りない」

おでこにキス

「足りない」

もう一回キス

「足りない」

「降参」

ダレンが両手を上げたので、自由になった俺はベットにダイブする。

「毛布の中でぎゅーってして。俺が寝るまで遊ぶ。それで許してやる」

堪えきれないように笑いながらダレンが隣に飛び乗ってきた。
意地っ張りなダレンが俺のワガママに見せてハグして撫でてキスするための予定調和の嘘。
お互いに了解済みの楽しい大?のなか俺たちは心ゆくまで遊び倒し、それからゆっくりと学校をサボった理由になるような嘘を考えるのだった。