Vday2011
花束にメッセージカードは付けちゃいけないらしい。
「なんで?」
「その方がロマン?があるからだって」
帰り道。
スティーブといつものように並んで歩く。
今日はバレンタインだからトミーはいないし、バレンタインだからアランもいないし、バレンタインだからサッカーもなし!
ああ、つまらない!
しょうがないから二人だけで遊ぶことにして、せっかくだからスティーブの家に行くことにした。
朝からずーっとバレンタインバレンタイン。
イヤでも耳にした話をスティーブと交代で一つずつ上げていく。
「イミわかんねー」
「ねー」
「てか誰に聞いたんだよそれ」
「パパ」
「大人の言うことなんて嘘だろ!カードがないと誰からかわかんねーし!」
「ねー!」
ほんとスティーブの言う通りだ。
僕だったら家の前にバラの花束が置いてあったらゴミ収集車が拾い損ねたんだと思う。
良くて誰かの落し物で、間違っても絶対に自分宛てとは思わないだろう。
まぁ、例外的に『自分宛てだと思う日』がバレンタインだと言われたら何も言えないけどさ。
スティーブの同意が嬉しくて思わず声が大きくなる。
そんな僕にスティーブがニヤっと笑った。
「とか言いながら、お前実はソレやろうとしてるんだろ」
「…バレた?」
「バレバレだっつーの。さっきからコソコソあたりを見やがって。言っとくがバラはその辺に生えてるもんじゃねえ」
「知ってるけどさ!」
そりゃ僕だって渡したい子がいないわけじゃないこともない。
でもバラなんておこずかいだけじゃ12本も買えないし。
こんなことで賭けサッカーの儲けから貸してなんて言うのも恥ずかしいし。
バラの花束がちょっと落ちててくれれば解決するのに。
あーあ、世の中って上手くいかない。
我ながら不貞腐れた声をだすと、スティーブが楽しそうに走り出した。
「ちょっとそこで待ってろ」
言い残してスティーブが乗り越えていったのは角をまがった大きな家の柵。
ママがガーデニングに凝ってる素敵なおうちって言ってた家。
まさか。
「ダレン!逃げるぞ!」
飛び出てきたスティーブが指を傷だらけにして握りしめてるのは2本の真っ赤なバラの花。
スティーブの馬鹿!
「スティーブ!逃げるよ!」
「おう!」
サッカーで鍛えた足を全開にして走る。
幸い『ガーデニングに凝ってる素敵なおうち』のおばさんはあまり足が早い方じゃなかったらしく、そんなに走らないうちに逃げ切ることができた。
「ハァッ・・ハァッ…」
必死に息を整えようとする僕に、嬉しそうにスティーブが僕にバラを差し出してくる。
「ホラ!」
あと10本は自分でどうにかしろってこと?
どうすればいいかわからないままスティーブの様子をうかがう。
そのうちスティーブがあまりに自信満々なのでなんだかおかしくなってきた。
そういえばスティーブに無名のバラは12本って言ってなかった気がする。
「あはは!ありがとスティーブ!」
2本のバラを受け取って1本を返した。
「はい、ハッピーバレンタイン。」
「は?俺に渡してどうするんだよ。」
スティーブが意味分かんないって顔してる。
そりゃそうだよね。
でもさ。
「今年はいいかなって。ほら、モテモテのシャン様は普段から女の子のほうが放って置かないし!それより今日はスティーブと遊びたい気分。」
そう言うとスティーブがまるでお菓子の雨でも降ってきたんじゃないかってくらいにニコニコになった。
「しょうがねぇな。俺だってモテモテのスティーブ様だから女の子からの誘いは山ほどあったんだけど、シャン君がそこまでいうならつきあってやるよ」
「ははー。恐悦至極。」
スティーブがあまりに上機嫌なので、今ならいけると思い本当は花束はバラ12本必要なことを伝えみた。
ついでに、どうせくれるなら大人になってちゃんと12本頂戴っていうのも付け加えてみた。
大人になったらこんな荒々しい方法じゃなくてちゃんと花屋で買ってくるだろうし。
そうしたらスティーブは少し驚いた顔をしてうんうんと嬉しそうに頷いた。
スティーブが笑ってるならトミーもアランもいないしサッカーもバラの花束もないバレンタインだけどこんな日も悪くない。
むしろいい日だ。
イベントなんて楽しければいいってことで。
今なら皆に言いたい気分。
『ハッピーバレンタイン!』
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