sideO

暗闇の中、もがき苦しんでいる仲間をただ見ていた。
どれだけ手を伸ばしても助けられない。
成す術もなく次々と命を落としていく仲間たち。
一瞬で終わるようなキレイな死に方ではなく、苦しんで苦しんで力尽きる。
やめろ。
やめてくれ。
声が出ない。
体が動かない。
いやだ。こんなの見たくない。
助けて。
誰か――みんなを助けてくれ。

気が狂いそうになる光景を何度も繰り返され、これ以上は耐えられないと絶望に飲みこまれかけた瞬間に世界が入れ替わった。
塗りつぶされたような真っ黒な闇から仄暗い夜の闇へ。
緊張に凍りついていた身体が体温を思いだし、現実感が戻ってくる。
必死な表情でオレを見降ろしていたユアンがほっとしたように息を吐いた。

「大丈夫か……?」
「あ、ああ…助かった。」

『助かった』

口に出して思い知る。
そう、オレは助かってしまった。
彼らはもう苦しんでいない。
彼らはもう生きていない。
オレだけが助かった。

「……オズ?」
「オレが代わりに死ねばよかったんだ」

黙り込んだオレを気遣うように名前が呼ばれ、優しい声音に張りつめていた気持ちが緩む。
一度口にしてしまうともうダメだった。
堪えきれなかった涙が溢れ出す。
なんでオレが生き残っちまったんだ。

「本当の家族でもないのに、みんな何でオレなんかを……!」

仲間の死は何度も乗り越えた。
乗り越えたはずだった。
そうして道を先に続けなければ、彼らの死が本当に無駄になってしまうから。
それでも、一人いなくなる度に膨れ上がる罪悪感に本当はいつも押し潰されそうだった。
受け止め、受け入れ、受け継ぐことが唯一の贖罪。

「オレは、あの人の代わりに生き残ったから苦しんで当然なんだ」

乾いた音と軽い衝撃が自暴自棄に逃げ込んだオレの意識を少しだけ研ぐ。
宙に浮いたままのユアンの手を見て、頬を叩かれたのだと理解した。
ユアンが真っ直ぐオレを見つめる。

「お前は、間違いなくあの人に愛されてた。そのお前があの人をそんなふうに」
「知ってるよ。愛されてたし愛してた。今でも愛してる――だからこんなに悲しいんだ」

全部言われる前にユアンの言葉を遮り止める。
知らないわけがない。知らずにいられるわけがない。
それでも言葉にして認めることは恐怖だった。
八つ当たりでしかないオレの泣き言に、ユアンは文句も慰めも言わず、ただ抱きしめながら付き合ってくれた。
オレが落ち着くまでどれくらいの時間が経ったかわからない。
だけどずっと付き合ってくれていた。

「……恥ずかしいところ見せちまったな」
「気にするな」

ようやくこの行き場のない感情に区切りを一つ付けられた気がする。
謝りながら体を離すとユアンが息だけで笑った。
その優しさにもう少しだけ甘えてもいいだろうかと欲がでてくる。

「恥晒しついでにもう一つ付き合ってくれないか?」
「いくらでも」

一拍と置かずもたらされた返事がどれだけオレを喜ばせたことか。
どこに?と問われて答える。

「最後の任務を終わらせに」