SM風味のセスアラ



「セス!」
「刑事さん。何か御用ですか?」
「こないだの話、気が変わったかなと思って」
「はぁ…。何度言われてもあなたに特別な感情は持てません」
「そっか」

『お前が好きだ』
二人きりになる度にそっと伝えられる言葉。
声を、口調を、息遣いを、頭の中で再現できるくらいには覚えされられてしまった。

「そもそも自分が僕に何をされたか覚えてますか?」
「――それは」
「さすがにそんな相手から好意を寄せられていると思えるほど自惚れてはいません」
「……でもオレ、諦められねぇから。考え直してみてくれ。また訊く。」

あからさまに溜息を吐いて見せたところでこの人には全く効果が無い。
どうしてここまで僕に執着するんだろう。
あまりのしつこさにいい加減うんざりしたところで、不意に思いついた無茶苦茶な要求をしてみることにした。
これで諦めてくれるだろうか。
去ろうとしていた刑事さんの背中に声をかける。

「いいですよ。あなたの気持ちに応えてあげます。」

一瞬で刑事さんが足を止めた。
振り返った顏はキラキラと嬉しそうに輝いている。
本当に素直な人だ。
この続きを聞いても同じ表情を保てるだろうか。
少し興味がそそられた。

「ただし僕が主導権取らせてもらいます」

意味が分かっていないのか、不思議そうな顏で僕を見つめる刑事さん。
まあ、見るからにこういった話には縁遠そうな人だし仕方がないのかもしれない。
その顔が嫌悪に歪めばいいと思いながら直接的な表現に言い換えた。

「僕はまだあなたの言葉を信用できない。だから、僕に抱かれてみせてください。僕の下で女のように喘いで、全てを晒してください。そしたら信じます」

これならイヤでも理解できるだろう。
考えるように刑事さんが黙り込む。
拒絶の内容を即答されるとばかり思っていたのに、検討する余地があることが驚きだ。

「無理でしょう? プライドが許さないでしょう? プライドくらいあるでしょう?」
「わかった」
「…は?」
「わかったって言ったんだ」
「本気ですか?」
「お前がそれで信じてくれるなら」

予想外の展開に冗談だと言い改めることもできない。
ドアのとこで待ってるからと言い残し刑事さんは今度こそ立ち去った。
感情がオーラとなって目に見えるというこの人には、返事を言葉に出来なかった僕がどんな風に映っていたんだろう。