たばこ



ホテルに着いてスーツのジャケットを脱ぐ。
身体が楽になれば少しは状況が変わるかと思ったが、結論から言えば全く効果がなかった。
考えがまとまらない。
仕事の内容上やむを得ないとはいえ、ここまで長時間タバコを断っているのは久しぶりだ。
ヘビースモーカーのつもりはないが、吸いたいときに吸えないという状況はそれだけでストレス極まりない。
最後に吸ったのはいつだ?
落ち着かない気分のままベッドに身を投げる。
うつ伏せになってピリピリとしたもどかしさに耐えているとノックの音が部屋に響いた。
一瞬すべてが煩わしくなり、寝たふりでもしようかと思ったがさすがにそんなわけにもいかない。
せめてもの意思表示として必要以上に時間をかけて起き上がる。

「……はい」

苛立ちを隠しきれない声になっていることを自覚しながら鍵を開けると、訪問者は予想通りの人物だった。
目を合わせるにためは僅かに見上げなければいけない長身。

「…荒れてんなぁ」
「オズ」

邪魔するぞと言いながらドアと支えているオレを押しのけ、勝手に部屋へ入ってくる。
ふと、意識が奪われた。
すれ違いざまに仄かに感じた匂い。
後ろでドアが閉まる音がしたのを確認し、腕を掴んで無理やりオズの足を止めさせた。

「……お前吸ってきただろ」
「バレた?」

オレがイラついてることをわかった上で、楽しそうにしている顔が無性に憎らしい。
ああ、つまり遠慮はいらないってことだな。
掴んでいた腕ごとオズの体を壁に押し付けて唇に食らい付く。
オズは驚きもせず、誘うように口を開いた。

「ん…はぁっ…んぅ…」

舌を絡めると求めていた匂いに少しだけ欲が満たされた。
同時に別の原因で身体が飢えていく。
いつの間にかオズが手を回して腰と頭を支えてくれていたので、オレは一層咥内を貪ることだけに専念する。
熱い。
もっと。
もっと欲しい。
太ももを割って入ってきたオズの足に昂ぶりを押し付けた。
ぷつりぷつりと上から順に一つずつシャツのボタンが外される。
手のひらで体中を撫でまわされるが、オズは肝心なところには触れてこない。
前を全部開いた手が胸の尖りを弾くと、思わず身体が跳ねた。
一度唇を離し、大きく息を吐く。

「…は……いきなり熱いことで」
「うるさい」
「――足りた?」
「そう見えるか?」

荒くなった息を整えながら尋ねるオズを目で挑発するとベッドに押し倒された。

「いいや」
「オズ、今日は一切焦らすな」
「――仰せのままに」

慣れた手つきであっという間に服を脱がされる。
言葉通り他のところには目もくれず、一直線に下半身の中心に手が伸ばされた。
ずっと触れてほしかったところに、ようやく望んでいた刺激が与えられる。

「あぁっ!」
「そのかわり、お前も声我慢するなよ」
「元から…我慢できる気がしない…」

オズの手が剥き出しになったオレのモノを握りゆっくりと上下に動かす。
直接的な快感がどんどんオレを追い詰めていく。

「んっ…!はぁ…っ…オ、ズ…!」
「それにしても、口に何か入れてないと機嫌が悪くなるなんて子どもみたいだな」

からかうように言われ、折角忘れられていた感覚を呼び戻された。
一度意識してしまうと纏わりついて離れない飢餓感。

「あ…うん…そう、くち…欲しい…オズ…」
「……凶悪」

オズがオレを見てぽつりと零す。
そうなるように誘導したのは自分のくせに。
焦らすなって言ったのに何してるんだオズ。
早く。
もう一秒だって待てないと思いながら、オレはオズの指にしゃぶりついた。