side O


面会の許可が降りてすぐ、アラゴが悪魔くんを連れて見舞いに来た。
手こそ繋いではいないものの、二人ともデレデレしやがって。
いつのまにそんな関係になったんだか。
アラゴは仕事の合間にすこしだけ時間をもらったのだと最初に告げ、忙しなく近況を話してあっというまに去って行った。
走って廊下に消える背中を見送ると、いつもより部屋が静かになったように感じる。
気のせいかと思ったけどそうでもないようだ。

「黙り込んじゃって。どうしたユアン?」
「…いや、あいつにも大事な相手が出来たんだなって思って。嬉しいよ」

自分がどんな表情してるかわかってるんだろうか。
性格なのか性質なのか。
こいつはどんなに辛いことでも、こちらからキッカケをつくらない限り一人で抱え続けていくんだろう。
……見逃せるはずがないだろう。

「それだけでもなさそうな顏だけど」

ユアンが驚いたようにこちらを向く。
黙って答えを待っていると、ため息と苦笑いで返された。

「…そりゃあ、な。子供のころケンカ別れして、ようやく再会したと思ったらやっぱりケンカして、気がついたらこうだぞ?複雑で当然だろ」

それでも全てを一人で背負おうとしていたアラゴが、甘えられる相手ができたというのは喜ばしい。
そう続けられた言葉に込められた気持ちは本物だった。
二人とも一人で解決しようとする。似たもの兄弟じゃねぇか。ああ、そうだったな双子か。
だからこそお節介と知りながらも言いたくなる。

「お前も少しは他人に甘えたら?」
「…そういうの下手なんだよオレは」
「素直に言えるじゃねーの」
「アラゴがいないからだよ」

ユアンが軽く頭を振って息を吐いた。
この話は終わりということだろう。
深入りしすぎた自覚はあったので、適当に話題を変える。

「オレとしちゃ、あいつらやっとくっついたかって感じだけどな」
「…オズはそれで良かったのか?」

冷やかし混じりに言うと、妙に真剣な顔で問い返された。
何故そこにオレが入るんだ。
それぞれ理由は違うとはいえ、今にも泣きそうに張りつめていたあいつら知ってる身としては祝福こそすれ悪く思うはずもない。

「は?良いも悪いもないだろ。いや、”良い”しかねぇよ」

この上なく正直な感想だが、ユアンは納得いかないようだ。
少しの間だけ一緒に戦った他人たちが、お互い特別になっただけだ。
そんなことでいちいち寂しがったり孤独を感じるような感傷はとっくの昔に捨ててきた。
ユアンに余計な気をまわさせてしまったことに気づき、無理やり頭を切り替えさせることにした。

「ほーら!凹むなってお兄ちゃん!何か楽しい事考えてろ。退院したらなにするか、とかさ!」
「退院したら?今は先延ばしにできている山積みの問題を片付けないといけなくなるわけだ。…頭が痛いな」

世間的には死人が生き返ったんだ。
行方不明ならともかく、たくさんの人間がこいつの亡骸を見ている。
これからしなければならない手続きの膨大さを思うと、いっそずっと入院していたいと言うユアンの気持ちも分からなくはない。
出来るだけ先に片付けておけるものを頭の中でピックアップしていると不意に名前を呼ばれた。

「オズは?」
「オレ?」

本当に予想外だった。
だから、さっきもだけどどこからオレの話になったんだ。
まぁいい。いつだってオレがやること一つしかない。
『いつも通り仕事をする』
簡単なはずの答えを即答できなかったのはユアンの目に何か必死なものが込められていたからかもしれない。

「オズはオレが退院したら少しは時間ができるんだろ?何かやりたいことはないのか?」
「オレは――」

自由な時間ができたら。
ああ、そうだ。
あの人たちの。

「墓参りを――」
「墓参り?」

聞き返されて初めて声に出していたことに気づいた。
慌てて口を押えるが手遅れに決まっている。
無意識のまま思考を言葉にするなんて絶対にありえないのに。
こんなに気が緩んでいるとは思わなかった。
動揺が収まらないオレをユアンが心配そうに覗き込む。

「オズ?」

ユアン。
ありがとう、とオレに言ってくれた男。
願わくば、いつかこいつと――

「あぁ。話したいことが、いっぱいある人が、いっぱいいるんだ」
「…そうか」

静かに返されて、会話が途切れる。
けれどその沈黙は決して居心地の悪いものではなかった。