アラゴin聖守護隊
地元の人たちがお化け屋敷と呼んで避ける朽ちかけた建物。
入り口にはロープが張られ立ち入り禁止の札が掛けられている。
いつものようにこっそり忍び込んだ中は、半分ほど回ったところで、特に怪しいところは見つからない。
この分だと残りもあまり期待が持てなさそうだ。
頭の中で次の目的地を考えながら無人の廊下を歩いていると、いきなり背中に息が止まるほどの衝撃を受け倒れそうになった。
「っつ…!?」
かろうじて踏み止まり振り返るが、睨んだ先には何もない。
だけど今のは気のせいでは済ませられない程の力だった。
「何だ…?」
声に出してみても反応するものはない。
何かが飛んできたなら床に落ちているはずと再び元の方向に向き直ろとしたところで今度は足と腹に痛みが走る。
「うわっ!」
一回だけなら偶然かとも思えたが、二度三度繰り返されるこれは明らかに何かの意志によってもたらされる行為だった。
姿の見えない攻撃。異常事態。
ついにパッチマンへの繋がるかもしれない手がかりに行き当たったことに笑い出したくなる。
痛みに耐えながら、どうやって乗り切ろうか考えていると不意に叫び声が飛んできた。
「避けろ!右だ!」
同時に今までで一番の衝撃を頭に喰らう。
『姐さんそっち!』
『わかってる!』
薄れていく意識のなかで焦るように交わされる会話が聞こえ、オレの記憶はそこで途切れた。
暗い。そうか気絶しちまったんだっけ。
鈍い痛みに状況を思いだし、ゆっくりと瞼を開ける。
最初に目に飛び込んできたのはボロボロの天井。
そして触りたくなるような色の髪。
昔、見たことがある。
誰だっけ。
あの、優しく頭を撫でてくれた―
「……オズ?」
記憶を確認するための呟きは思いの外大きく響いたらしい。
ぼんやりと考え込むように前を見つめて座っていた男がこちらを向いた。
「アラゴ、……久しぶりだな」
名前を呼ばれたことと、少し迷った後に続けられた言葉に驚く。
まさか、本当に?
「オズ、なのか?」
「そうだよ。……また会っちまったな」
肯定されるとともに、苦笑いに隠しきれない激情が伝わってくる。
不似合いな今にも泣き出しそうな目。
どうしてそんな顔するんだ?
尋ねようとしたところで、オズの向こう側からおっとりした感じの女性が身を乗り出してきた。
「オズ。その子、気が付いたの?」
「ああ、とりあえず」
「じゃあ行きましょうか」
「ごめん、姐さん、もうちょい時間もらっていい?」
「…しょうがないわね。少し席を外してるから終わったら呼んでちょうだい」
「ありがと」
女性はそのまま立ちあがり、廊下の角を曲がってどこかへと姿を消した。
オズが手を出してきたので掴まりながら上体を起こし、壁に寄りかかるように座る。
「…アラゴ、どうしてお前こんなところに一人でいるんだ」
静かに問われると溜まりこんでいた感情が一気に渦を巻く。
溢れるままにオズがいなくなってからオレが家を出るまでの長い話をした。
あの時一緒にいて、今まで一緒じゃなかったこいつだからこそ打ち明けられる話。
学校での反感。街の人たちのウワサ。ユアンの変化。
全てがオレを否定した。
誰もオレを信じてくれなくなった。
だから一人でパッチマンと戦うと決めた。
そう話を終えると、優しい声で笑われた。
「バカだなぁ。信じてほしくなったら俺に言いに来いって言っといただろ?」
いつのまにか流れ出していた涙をそっと拭われる。
あの時よりずっと大きくなったオズの手が頭に置かれた。
「オレがお前を受け入れる。なぁ、アラゴ。お前、聖守護隊に来いよ」
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