デレデレなアラゴ
ボランティアの時間が終わって帰り支度をしている最中。
何故か、後はよろしくという言葉とともに刑事さんを押し付けられた。
机にうつ伏せて僕を待っていたらしい。
赤く染まった頬とアルコールの匂い。
どこからどう見ても酔っ払いだ。
なんとか家まで連れて行って、カギを開けさせることには成功した。
中に押し込んでドアを閉めた後、やっぱりベッドまで連れて行ってあげようと同情心を出したのが間違いだった。
「あれ?セスじゃねぇか」
「他の誰に見えますか」
「セス。セス。セースー。セース」
「はいはい。セスです。いいかげん離してもらえませんか?」
「好き」
5回目の訴えを無視され、同じだけのため息を吐いた。
刑事さんはベッドの上で壁に寄りかかり、上機嫌で僕を抱え込んでいる。
これが猫ならうるさいくらいに喉を鳴らしているんだろう。
「セス。好きだ」
にこにこと緩みきった表情で刑事さんが僕を見る。
ああ、でもこれは刑事さんの本心を聞きだすいいチャンスかもしれない。
抜け出すのを一度諦めることにし、刑事さんに尋ねてみた。
「僕のどこが好きなんですか?」
「かお」
最低。
即答され、自分でも驚くくらいに機嫌が悪くなるのが分かった。
婦警の方々からも人気だし、それなりに整っている方だという自覚はある。
物事を効率的に進めるための道具として利用したことも少なくない。
それでもこの状況でその回答は最低としか言いようがない。
思わず重ねて尋ねた。
「他にないんですか」
「えーと、優しいところ」
「僕が?」
「軽食堂の裏で猫にエサやってるだろ?優しくて好き」
「知って――」
「あとなー、事件の話しに来てたばーさんの荷物持ってやってたの見た。優しくて好き」
「どうして」
「あとー、ジョーさんにコーヒーあげてたよな。優しくて好き」
「――それは全部、ボランティアをする優等生としての仮面ですよ。本当の僕ではありません」
「えー。これもダメ?」
こんなに刑事さんに見られていたなんて初めて知った。
恥ずかしいような嬉しいような気持ちで泣きそうになる。
かろうじて答えると、刑事さんは理由が分からないまま叱られた子どもみたいに拗ねた表情をした。
「……じゃあセスの髪。サラサラしててて好き」
刑事さんが僕の髪に触れる。
ひと束摘まんで口付けられた。
「セスの指。オレを気持ちよくしてくれるから好き」
指を絡めてそのまま引き寄せられる。
親指から小指まで順番にキスされた。
「セスの口も。あ、顏はダメなんだっけ。わり」
額が触れそうなくらいに近づかれて動けなくなる。
僕の胸に頬擦りしながら、眼もキラキラしてて好きなんだけどなーと刑事さんは独り言のように呟いた。
「腕。華奢なのに結構重いモノ持てて凄いよな。好き。」
「刑事さん、待っ」
「腰。この角度が好き。あ、でももうちょっと肉つけてもいいから好きじゃない。でも好き」
「もういいですから」
刑事さんの手が服を辿ってずるずると降りていく。
マズイ。これ以上されると本当に抑えが利かなくなる。
「あと――」
「刑事さんっ!」
こっちは終わりというようにシャツの裾を引っ張られた。
布越しに太ももに噛み付かれる。
聞いたこと無いような甘い声で刑事さんが囁いた。
「セス。好きだ」
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