01. Darren

体が解けていく。
クレプスリーやカーダ、ガーブナーにエラ。
僕より先に楽園に行ってしまったみんなの顔が見える。
輪郭をなくした僕は吸い込まれるように意識を失い…









そして目が覚めた。
草。木。森。空。木の柵。家。
楽園って意外と普通だ。
起き上がろうとしたところで僕は気づく。
体が、ある。
解けてしまったはずの体があることにひどく違和感を覚える。
なぜだろう。
周りを確認しようにも自分の体の重さに起き上がることができない。






僕はしばらくの間、そのまま世界を眺めていた。







どのくらいそうしていたのだろう。
草を踏み分けて近づいてくる足音に、ようやく僕の意識は時間の概念を思い出した。

「きゃっ!」

普通に生活していたら一歩先に人が倒れているなんてまず考えない。
その女の子は転がっている僕を見て小さく悲鳴を上げた。

「お兄ちゃん!お兄ちゃん来て!大変、人が倒れてる!」

振り返って大きく手を振りながら叫ぶ女の子に”お兄ちゃん”と呼ばれた人物は慌てて追いついてきた。

「どうしたんだよアニー。」

頭の方から覗き込むようにして現れたのは。

「うわっ」


なんてことだ。
あれは。



僕だ。








正確に言うと僕だけど僕じゃない。
彼は僕が死んだフリをして家を出たときよりも大人に見える。僕はひとつの可能性に気づいた。エバンナに導かれて僕は子供のころの僕を驚かした。驚いた僕は家に逃げ帰り、その日のことは子供のころの秘密としてそのまま家族の下で育ったはずだ。
つまりこの僕は。

「ねぇ。あなた大丈夫なの?」

背と髪が昔よりだいぶ伸びたように見えるアニーが心配そうに尋ねた。
答えようと口を開き、僕はふと疑問に思う。
ミスター・タイニーは僕をリトルピープルにしたときに口が聞けないようにしてしまった。
今の僕はどうなのだろう?
考えて、考えるよりも試してみるほうが早いことに気づいた。

「だ…丈夫…。」

大丈夫。
かすれているけど声は出た。
感触としては少し話す練習をすれば元通りになるだろう。

「あなた、名前は?」
「僕は」

ダレン・シャンを名乗るわけにはいかない。
とっさに親友の名前が出てきた。

「僕の名前はハーキャット。ハーキャット・マルズ」



彼の名前を口にしながら、僕は心の中で一つの決意が固まっていった。




あれが僕なら、僕は確かめなきゃならないことがある。




「具合が悪いのなら救急車を呼ぶかお医者様に行くかうちに来て休んでいったら?」

警戒心の全くないアニーに、お兄ちゃんの僕は盛大に眉をひそめていた。アニーの将来が心配というよりは面倒ごとがおきたとき責任が自分にかかってくるのが嫌なだけだろうが。


「だい、丈夫。少し、たち…く、ら、みが、しただけだから。」

何とか不自然でないくらいの速さで声が出せた。
僕の返事を聞き、お兄ちゃんの僕はアニーの手をとった。

「大丈夫だって。アニー、行こう」
「ちょっとお兄ちゃん!?」

それでいい。
”お兄ちゃん”はそうするべきだ。
僕としてもこのままどこかに連れて行かれて出発が遅れてしまうのは本望ではない。




遠ざかる二人分の足音を聞きながら、僕は目的地までの最短ルートを急いで組み立て始めた。