02. Seba

初めてクレプスリーと行ったときはあんなに大変だと思ったバンパイア・マウンテンまでの道も、今ではそう遠く感じない。確かに気は急いているけど、目的地まで後どのくらいあるのか分かっているというのは、それだけで違うものだ。

バンパイア・マウンテンまでのフリットが許されたのは「傷ある者の戦」が始まってからだ。だから僕は全力で走っていた。全速前進の指示は司令部と駆動部が別物だったら滞りなく完遂され、今頃僕はバンパイア・マウンテンにいただろう。
しかしあいにく両方とも僕の体だ。残念ながら何回かの休憩は必要となる。結局僕がバンパイア・マウンテンに着いたのは出発してから2週間後のことだった。


「止まれ!」


冬でもないのに相変わらずここは雪だらけだ。場所と高さと両方のせいだろう。その普通の人間には簡単には近づけないような岩肌に中への入り口はあった。

敵意がないことを示すように正面からゆっくりと近づいたが、彼らと何の面識もない僕は当然門番に止められた。

「名乗って用件を言え。」

名乗ったところで僕の名前を知ってる人なんていない。
僕は考える。誰だろう。僕の話を信じてくれそうな人。しかし僕はバンパイア・マウンテンで会った人たちを一人ずつ思い出すまでもなく、すぐにある人物に思い至った。


僕は堂々と宣言した。



「シーバー・ナイルを呼んでくれ。クレプスリーの手下が会いたがっていると。」



僕が試練に失敗して逃げ出して、でも帰ってきたときに彼はすぐに信じてくれた。
彼なら信じてくれるはずだ。

見張りの二人組みは僕に聞こえないような声でこそこそと話し、一度頷きあうと、一人が通路の奥に消えていった。やった!シーバーを呼んで来てくれるようだ。
そしていい加減、僕を睨むだけで何もしゃべろうとしない門番(よくよく考えたら実は見覚えのある顔だったかもしれない)と二人きりでいるのにも嫌気が差すほどの時間がたってから、ようやく彼は帰って来た。

一人で。


一瞬僕は自分の目を疑った。でもその疑いは一瞬どころか今このときまでも継続して見せ付けられる証拠に跡形もなく吹き飛んでいった。何回瞬きしても僕の目に映る風景は変わらない。もしかしてシーバーはクモ好きの趣味が高じて天井を移動しているのかもしれない、なんて。そんなバカなことがある訳ない。帰ってきた二人組みの一人は相方と同じように僕を睨みつけた。




「需品長の言葉を伝える。クレプスリー殿に手下はいない。よしんばいたとしてもクレプスリー殿自身が紹介しに来るべきであり、自分が直接その手下と会う謂れはない、とのことだ。」


僕の心は絶望でいっぱいになった。シーバーに信じてもらえなかったら、他の誰が僕を信じてくれると言うのだろう。

「やはり貴様、バンパニーズの手先だな?」

門番たちが僕に槍を向けてくる。
僕がどんなに否定しても無駄だろう。
このまま戦って死ぬのもいいかもしれない。
覚悟を決め始めたそのとき、知っている声が聞こえた。





「待った!彼は俺の友人だ!俺を訪ねて来たんだ!」